いよいよ見えてきた「人工肺」の実用化

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月10日 14時30分

<豚の胸腔に移植した「バイオ工学肺」が正常に機能した実験結果は、移植を待つ人々に大きな希望をもたらす>

肺の移植を待ちながら、命を落としてしまう人々がいる。そもそも全ての患者が、適合する臓器の提供を受けられるわけではない。仮に移植を受けられたとしても、免疫系の拒絶反応などでうまくいかないことも多い。

科学者はこうした問題を、何とか解決しようと研究を続けてきた。テキサス大学医学部の研究チームは14年、ヒトの肺を人工培養することに成功。先頃は培養した人工肺を豚に移植することに成功し、その研究結果が8月、サイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌に掲載された。

研究チームはまず、移植対象の豚とは関係のない動物から肺を取り出し、全ての血液と細胞を除去して、タンパク質から成る「肺構造の足場」を準備。栄養素を含む溶液で満たした培養槽にこれを入れ、移植対象となる豚から肺の一方を取り出して、その細胞を「足場」に加えた。30日間にわたって培養を続けたところ、移植対象の豚と組織適合性のある肺に成長した。

豚が選ばれたのは、胸腔が大きいという理由からだ。移植を受けた豚のうち数匹は手術の合併症によって死亡したが、論文の筆頭著者であるジョーン・ニコルズによれば生き延びた豚は健康だった。胸腔内で正常に機能する血管網も形成された。

発育不全の新生児を想定

肺の移植が必要になる理由はさまざまだ。今回の研究は、主に発育不全で生まれた新生児の治療を想定して行われた。

研究チームが特に注目したのは、先天性横隔膜ヘルニアという症状。胎児の横隔膜が形成されず、腸が胸腔に上がってきて、肺の成長が阻害される。

「極めて重篤な先天性横隔膜ヘルニアの場合、新生児は打つ手がなく、生まれてもすぐに死んでしまう」と、ニコルズは言う。先天性横隔膜ヘルニアは治療が非常に難しい。これを患った新生児を救う新たな道として、バイオ工学によって作られた人工肺の移植が注目されている。

この技術を本格的に実用化するには、今後さらに研究が必要だ。財源不足に陥らないかが心配だが、その点を乗り越えれば、人工肺移植の技術は有望なものに思える。

「十分な資金と今よりも優れた設備があれば、今後5~10年で実用化できる可能性がある」とニコルズは言う。

適合する臓器さえあれば、命を取り留められる患者は大勢いる。この研究は、臓器の移植を待つ人々が直面する臓器不足の解決に向けた一歩として希望が持てそうだ。

<本誌2018年9月11日号掲載>



リサ・スピアー

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