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「全員アジア系」の映画『クレージー・リッチ』がアメリカで大ヒットした理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月27日 16時20分

本作の場合は元来が、華僑コミュニティにおける「中国系アメリカ人」と「シンガポール華人」の行き違いが重要な要素となっており、主要な人物を白人にしてしまうと全体が破綻するというのが原作者の主張でした。その主張が通り、結果的に「ホワイトウォッシング」ではなく、オール・アジア人キャストで作ったところが、多数派の観客にも大きく支持されたという結果になりました。その点で、この作品はハリウッドの歴史を変えたと言って良いと思います。



では、この作品が大変な傑作かというと、それは違うと思います。全体は、何とも昭和風といいますか、日本でブームになった韓流ドラマとでも言うようなベタなラブコメであり、それ以上の作り込みはされていません。

公開直後にシンガポールに行く機会があったのですが、地元メディアでも「シングリッシュ(英語のシンガポール方言)が出てこない」とか「マレー系やインド系を含めた多民族国家の現実が無視されていて残念」といった批判が出ていました。シンガポールの描き方にしても、絵葉書的な底の浅い表現が目立っていたように思われます。

そんな作品がどうして「3週連続1位」になったのでしょうか?

1つには、本作では「結婚するには家族の、特に男性の母と祖母の承認を取り付けないといけない」とか「名家に嫁に行くというのは家族共同体の一員になること」といった保守的な価値観がテーマになっています。個人主義のアメリカでも、そのような家族観にノスタルジーを持つ人は一定数います。ですが、現在のアメリカを舞台に、そんな保守的なカルチャーを描いたら、全く不自然になってしまいます。そこで、アジアを舞台にしたドラマであれば、違和感なく入り込めるというわけです。ある種のステレオタイプの視線かもしれませんが、作っているのがアジア人ですから悪いことはないだろうということでしょう。

2番目には、全米でアジア系があらゆるコミュニティに浸透しており、全く違和感がなくなったということが背景にある、とは言えるでしょう。

3番目としては、国際ビジネスに関係している人には、シンガポールの繁栄は実感として常識になっており、その周辺にいる人々を好奇の対象として見ることはあっても、不快感を感じるような層は消滅しているという事実はあると思います。

4番目としては、(多少ネタバレになりますが)主人公である中国系のアメリカ人女性が「アジア度が足りない」として一種のイジメにあう中で、観客は彼女に感情移入して応援するような仕掛けになっている点です。アメリカの非アジア系の観客にしても、その「アメリカ代表」が奮闘する姿に共感しているという点もあると思います。

このように映画としては、ベタなラブコメという大量消費エンタメ作品ではあるのですが、観る人間の立場によって様々な感想が出てきそうなのが、この作品の特徴だと思います。華僑の本家である中国、あるいは経済成長の歴史ではシンガポールに先行した日本のマーケットで、どう受け止められるかが興味深いです。

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