やせていても太っていると思い込む、日本の女性の危険な「やせ」願望
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月10日 16時30分
<実際より自分が太っていると思い込む傾向が強い日本の女性――新生児の低体重児の割合が主要国中で最も高いという弊害も>
現代の日本は飽食の時代と言われているが、20~30代の女性は、食糧難だった終戦直後の時代よりも栄養失調の状態にあるという。多忙で食事の時間が取れないことや、痩身(やせ)願望が強いことが原因とされている。
無理な減食(欠食)は当人の身体に異常をきたすと同時に、生まれてくる子どもへの影響も懸念される。2015年の統計によると、新生児に占める低体重児の割合は9.5%で、主要先進国の中では最も高い(内閣府『男女共同参画白書』2018年度版)。
人間の体格を測る指標としてBMIがある。「Body Mass Index」の略で、体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値だ。この数値が18.5を下回ると痩身、25.0を上回ると肥満と判定される。
ISSP(国際社会調査プログラム)が2011年に実施した「健康と健康管理に関する調査」では、各国の成人に身長と体重を尋ねている。個票データから日本の20代女性のBMIを計算すると、17.3%が痩身、7.7%が肥満と判定される。この結果は国際的に見てどうなのか。横軸に痩身、縦軸に肥満の割合をとった座標上に、32カ国のドットを配置すると<図1>のようになる。
右下は痩身の女性が多い国で、日本を含むアジア諸国がほとんどだ。数としては、痩身より肥満の率が高い国が多く(斜線より上)、欧米諸国はこのゾーンに位置する。その最たる例がアメリカで、20代女性の半分近くが肥満という結果だ。ハイカロリーな食事が要因となっているのだろう。
世間で言われている通り、日本では「やせ過ぎ」の女性が多いことが分かる。その原因として、過度の痩身志向があるのは否めない。日本では「やせ」を美とする風潮が強く、特に思春期の女子はそれを敏感に察知する。
最近の国立青少年教育振興機構の調査によると、日本の女子高生の半分以上が「自分は太っている」と思っている。しかし客観的な体重をみると、痩せている子が多い。<図2>は、体重と肥満認識をとった座標上に、4カ国の高校生男女のドットを配置したグラフだ。
日本の女子生徒(Jf)は最も右上にある。痩せている子が多い(身長差を考慮しても)にもかかわらず、自分を肥満と思っている子の割合が高い。同じ女子でも、アメリカとは大違いだ。
日本の女子は、客観的な状況と認識のズレが大きくなっている。痩せているにもかかわらず、自分を肥満と思い込んでいる。ジェンダーの差(m:男子とf:女子の距離)も大きく、痩身を美とする風潮に過剰に反応している(させられている)女子の姿は痛々しい。メディアも痩身を過度に煽るのは控えるべきだろう。
ちなみに、何が美とされるかは時代や社会によって違う。太ろうにも太れない時代や発展途上国では「ぽっちゃり」、飽食の現代や先進国では「やせ」が美しいとされる。大雑把に言って、実現し難いことが尊ばれる傾向にある。常識の社会的規定性(相対性)について知っておくと、「今・ここ」の風潮に振り回されにくくなる。
<資料:ISSP「Health and Health Care - ISSP 2011」、
国立青少年教育振興機構『高校生の心と体の健康に関する意識調査』(2018年3月)>
舞田敏彦(教育社会学者)
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