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『サピエンス全史』の歴史学者が、AI革命後の未来を見通す最新刊

ニューズウィーク日本版 / 2018年10月18日 17時0分



インタビュー中、議論は必ずと言っていいほどAIの話題に戻る――現在の政治的危機が厄介なのは、危機に気を取られて懸念すべきこと、つまりAIに目が行かなくなるから。人類に新しい物語が必要なのは、グローバルな協力だけが人類を敵、つまりAIから守るから。「『なぜもっと早くAIを規制しなかったのか』と20年後に自問したら、その答えは『ブレグジット(イギリスのEU離脱)とやらにかまけていたから』だろう。本当に時間の無駄だ」

歴史学者が過去の分析から未来の予測に転向する例は以前からあり、理解できなくはない。過去の変化の経緯と理由が分かれば、将来起こり得る変化の経緯と理由を予測する際のよい指針になり得るからだ。



それでもハラリ自身が承知しているとおり、信じられないようなロボット革命が迫っているという不安あるいは幻想は、過去1世紀にわたって繰り返されてきた。なのになぜ、現在これほど深刻化し、ドラマチックになるのか。

ハラリは2つの側面を挙げる。1つは、ロボットが既に純粋な肉体作業ばかりか認知的作業でも人間を上回っていること。もう1つは、人間に残される数少ない仕事は高度なスキルを必要とし、そのために不可欠な訓練は手が届かないほど高額で、かつ受けても無駄だということだ。AIは今後急激な成長を遂げるはずで、「人々は生涯に1回だけでなく、2回、恐らくは3、4、5回と自己改革が必要になる。人間には経済的にだけでなく心理的にもつらい」。

矛盾点や空虚な部分も

ハラリが特に影響を受けた著作は、97年のジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』(邦訳・草思社)と、82年のフランス・ドゥ・バール著『政治をするサル――チンパンジーの権力と性』(邦訳・どうぶつ社)。有力な行動経済学者ダニエル・カーネマンの名も挙げる。「私の考えの大半はこの生命科学と人文学の集約に影響を受けている。生物学を理解せずして歴史は理解できない」

人間は自然界と切り離せないという主張も、彼の著作に繰り返し登場するテーマだ。「ホモサピエンスはその事実を何とか忘れようとする。だが、彼らは動物だ」と、ハラリは『サピエンス全史』に書いている。

しかし、それに続く考えはしばしば矛盾しているように見える。じきに人間は動物でなくなり「神のように」なるはずだとハラリは考えている。「私たちの力は驚異的」で、それを「私たちは止められず、止めようともしない」。AIは当然進化し、人間を全能にすると同時に無力にもするという。

ハラリは世界のどうしようもない側面を受け入れるという前提で、切迫した時代に意義ある人生を送るヒントを与える。だが彼の著作には空虚な部分も多い。抽象的な問いが冷酷な予言や饒舌な処方箋と組み合わされ、詳しい説明のないまま、教訓のように性急に投げ掛けられる。

「世界を読み直す『大きな物語』が切実に求められている」と、ハラリは言う。「だが責任ある科学者がそれに応えなければ、無責任な陰謀論者が代わりに応えるだろう」

ハラリの大きな物語は魅惑的で示唆に富む。彼はもちろん無責任な陰謀論者ではない。

だが、ハラリが「理性的な科学者」と言えるかどうか、現代を代表する知識人に壮大な物語だけにとどまらないものを望むべきかどうかは、また別の話だ。

<本誌2018年10月16日号掲載>


[2018.10.16号掲載]
サミュエル・アール


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