背景には「中国製造2025」──習近平による人民の対日感情コントロール
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月23日 12時10分
反日デモに参加する可能性の高い層の若者たちには、「まあ、政府がここまで反日的姿勢を示すならば、自分たちが暴れなくても十分だ」という「反日満足感」を与えていたのである。
ところがだ――。
アメリカにトランプ大統領が現れた。
2017年11月8日から10日にかけて正式国事訪中して、皇帝のような厚遇を受け米中蜜月を演じたトランプだったが、帰国して1ヵ月ほど後の12月18日には「国家安全保障戦略」を、2018年1月には「国家防衛戦略」を発表して、強烈な対中強硬姿勢を表明した。
3月からは中国の輸入品に高関税をかけ続け、習近平が中国の命運を賭けて完遂しようとしている「中国製造2025」を、トランプは阻止すべく激しく方向転換をした。
同時に「台湾旅行法」を制定して、米台の政府高官が互いに相手の国を訪問することを認めた。これは米台防衛関係者の相互訪問を保証することになる。
その証拠に、8月になると、トランプは「国防権限法」に署名して、さらなる対中強硬姿勢を鮮明にした。なんと、「台湾との軍事協力を強化する方針」を打ち出したのだ。
これでもか、これでもかと、中国の逆鱗に触れる政策を打ち出し続けたことになる。
反米意識が中国を覆う
中国は激怒した。
もしこれで習近平が怒りを表明しなかったら、昨年11月のトランプ歓迎は何だったのかと、中国人民の笑い者になっただろう。
中央テレビ局CCTVだろうとネットだろうと、アメリカへの批判と反感に満ち溢れ始めた。
それまでは日本の悪口、特に安倍政権への批判ばかりを毎日のように報道していたCCTVからもネットからも、ピタリと安倍批判が消えてしまったのだ。
これはつまり習近平の「アメリカが中国を攻撃してきたから、これから中国は日本を受け入れるが、だからと言って俺を"親日政府"、"売国奴"などと罵倒するなよ」というメッセージであり下準備だったのである。
2008年6月、当時の国家主席・胡錦濤が北京オリンピックを成功させるために日本と東シナ海の共同開発を約束した。するとネットは炎上し、胡錦濤を「現在の李鴻章」として売国奴呼ばわりをしたことがある。2008年3月にチベット暴動を武力弾圧したため西側諸国の首脳が相次いで北京オリンピックのボイコットを宣言したため胡錦濤は落とし易い日本にすり寄って出席を取りつけようとしたことがあった。
その二の舞を踏むまいと、習近平は周到に中国人民の対日感情をコントロールし、習近平が安倍首相に笑顔を送っても罵倒されないように予め準備したのである。トランプにアメリカからの半導体の輸入を制限されたり中国製ハイテク製品の輸出に高関税を掛けられたりすれば、日本に接近するのが最も手っ取り早い。
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