プロレスの歴史から読み解くトランプとアメリカ
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月24日 15時0分
<政治もプロレスもパフォーマンス――トランプはホワイトハウス所属の「悪役レスラー」だ>
16年の米大統領選でドナルド・トランプは報道陣を侮辱し、対立候補を嘲り、支持集会で暴力を奨励。就任後はトランプがプロレス会場でCNNをたたきのめす動画まで登場した。まるでプロレスのような政治闘争は多くの有権者に大受けだ。
アメリカ人はなぜこんなにプロレスが好きなのか。それを解き明かすのがオーブリー・シッターソン作、クリス・モレノ絵『漫画プロレス物語(The Comic Book Story of Professional Wrestling)』だ。
植民地時代のルーツから現代のWWE(ワールド・レスリング・エンターテインメント)帝国まで、プロレスの全てを網羅。いつの時代も変わらないアメリカ人の見世物好きを浮き彫りにする。演出された戦いと筋書きどおりの結果は、観客の感情をかき立て、悪(ヒール)と戦うヒーロー(ベビーフェイス)を見たいという欲求を満たす。
だがレスラーたちは「真実の柔軟性」も心得ていて、時には思わぬどんでん返しも。この意味で、本書はアメリカの第45代大統領と今の政局を理解する手引にもなる。
トランプは昔から大のプロレス好き。ニューヨークでWWEの試合会場確保に協力し、アトランティックシティーのホテル付きカジノ「トランプ・プラザ」を試合会場にし、レスラーとしてWWEのビンス・マクマホン会長と戦ったこともある(トランプが勝ってマクマホンを丸刈りにさせた)。
「人生はパフォーマンス」
シッターソンによれば、いつの時代も台本どおりのキャラクターは大人気。それは本書でも170ページにわたって見事に表現されている。リングの外でも美女をはべらせ豪遊する悪役レスラーのユニット「フォー・ホースメン」がいい例だ。
デジタル時代になって変わったのは、政治家やセレブからフェイスブック上の「友達」まで、他人が自分自身を入念に演出するのを平気で見ていられるようになったこと。「誰もが人生はパフォーマンスだと明らかに気付いている」とシッターソンは言う。WWEでも、自身がホストを務めたテレビ番組『アプレンティス』でも別の自分をつくり出して演じてきたトランプは、パフォーマンスアートの達人だ。
プロレス人気もうなぎ上り。WWEは19年10月から人気番組『スマックダウンライブ』をFOXテレビで放映する総額10億ドルの5年契約を結び、WWE以外の試合の動画配信サービスを提供する。来年4月にはWWE以外の団体として初めて、米ROHと新日本プロレスがニューヨークのマジソンスクエア・ガーデンで合同興行を行うが、8月に売り出されたチケットは即完売だった。
「これだけプロレスのファンがいるのだから、過去の話も知って現状を把握したい人は多いはず」とシッターソン。ただしホワイトハウスの「レスラー」については、モレノが言うように「ショーやエンターテインメントで効果的な演出が、ほかの分野でも有効とは限らない」。
<最新2018年10月23日号掲載>
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モ・モズチ
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