村上春樹が今度こそノーベル賞を取るために
ニューズウィーク日本版 / 2018年10月24日 18時10分
<村上春樹がフランスの作家なら、フランス人は村上という天才にノーベル賞を取らせるにはどうしたらいいかを熱く議論しただろう。日本人はなぜそうしないのか? 文学への情熱を失ったのか?と、フローラン・ダバディが問う>
日本文学にとっては3度目の正直になります。川端康成と大江健三郎に次ぐ栄光、21世紀に相応しいノーベル文学賞受賞者の到来を私も待っています。最近はほとんどの先進国が受賞しているのに、日本だけは恵まれていません。日本政府はフランス政府と共同で史上最大の日本文化祭「ジャポニズム2018」をフランス・パリで開催し、ソフトパワーの極みである五輪、題して「東京2020」の招致にも成功しました。
私の子供時代(1980年代)には、日本は斬新かつコンテンポラリーな建築、映画、文学のムーブメントを誇っていました。西洋では、あらゆる日本文化の中でもこの3分野はとりわけ粋とされました。
残念ながら映画と文学は、日本でも今は不毛の時代です。『万引き家族』がカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したではないか!と思われるでしょうが、現代日本の映画監督で黒澤明や小津安二郎ほど知名度がある監督はいません。文学でも、三島由紀夫以来、世界で名の通った作家はいません。強いて言えば、村上春樹だけでしょう。寂しいことに村上は、ノーベル文学賞の代わりに立ち上げられた今年限りの市民文学賞の候補を辞退しました。
日本社会の欠落をクールに
近年の日本のマスメディアの村上煽りは的外れでしたし、日本の知識人はノーベル文学賞を受けるには村上文学は重みが足りないと言っていました。アルフレッド・ノーベルの遺言では、ノーベル賞の設立趣旨は「人類全体に対し、最大の公益をもたらした人を顕彰する」とありますが、大江健三郎は広島・長崎への原爆投下から半世紀という区切りの年だから受賞したという側面があったし、川端康成の受賞はアジア初のノーベル文学賞でダイバーシティ(多様性)的要素の後押しがあった結果だと思います 。川端と大江の文学は偉大だとしても、当時の世界との関係でタイムリーだったからこその受賞でもありました。
その点、村上春樹は世界中の読者を虜にする、数少ないアジアの小説家です。その意味では当時アジアを代表していた川端に負けていまません。大江さんは閉鎖的な日本の危険性やナショナリズムと戦う政治色のある作家であり、同時に知的障害者の長男と日々生きる闘いも小説にできた鬼才です。村上春樹に比べて波乱万丈な人生だったのかもしれませんが、実は村上も、日本社会の排他性を同じ強さで批判しています。しかも若い世代がより興味をもつように、日本社会の欠落をクールに描いてきたのが村上です。
この記事に関連するニュース
-
<話題の本>マジックリアリズムの金字塔、半世紀越しの文庫化 『百年の孤独』
産経ニュース / 2024年7月7日 9時40分
-
母国のためクルコフは書き続ける【沼野恭子✕リアルワールド】
OVO [オーヴォ] / 2024年6月30日 8時0分
-
スピルバーグが「アメリカン・フィクション」原作者の小説を映画化 タイカ・ワイティティが監督か
映画.com / 2024年6月26日 16時0分
-
村上春樹『風の歌を聴け』が表現する日本的感性 「他人とは分かり合えない」から始まる人間関係
東洋経済オンライン / 2024年6月20日 11時0分
-
村上春樹『風の歌を聴け』が描く戦後日本の虚無感 「日本的なるもの」の喪失を描いた透明な文学
東洋経済オンライン / 2024年6月19日 12時0分
ランキング
-
1米副大統領候補のバンス氏、台湾へのパトリオット供与遅れを批判「ウクライナのせい」
産経ニュース / 2024年7月17日 14時38分
-
2トランプ氏は「神の手に守られた救世主」 暗殺未遂、個人崇拝に拍車
AFPBB News / 2024年7月17日 16時29分
-
3ウクライナ侵略開始後、動員や弾圧避けるためロシアから65万人流出か…露独立系メディア集計
読売新聞 / 2024年7月17日 18時23分
-
4韓国でLINEユーザーが急増した理由 日本への反発?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 15時55分
-
5「将軍」最多25ノミネート=主演の真田広之さん候補―米エミー賞
時事通信 / 2024年7月18日 4時53分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)