中間選挙を目前に、トランプが分断を煽る理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月1日 15時30分
結果的に、礼拝堂の長老(ラビ)が「私はあらゆる弔問を受け入れる」という精神で応対しました。ですが、その根拠というのは、「礼拝堂はあらゆる信徒に開かれている」という精神からでした。同じ根拠で、トランプの言った「礼拝堂が武装していれば惨劇は防げた」というコメントを、この長老は完全否定しているわけです。トランプは、長老の好意で弔問を許されたことで、いわば自己矛盾に陥っていることになります。
そうした一連の結果として、弔問に訪れた大統領に対して「反対デモ」が起きるという前代未聞の事態になりました。ですが、この「ピッツバーグ弔問と反対デモ」というニュースは、翌朝のテレビ各局でのトップニュースにはならなかったのです。
それを上回るインパクトのあるニュースとして「大統領、市民権の出生地主義を否定」というニュースが駆け巡ったからです。大統領は、相変わらず遊説の中で「移民キャラバン」に対するヘイトとしか言いようのない演説をして、取り巻きの支持者を煽り続けていますが、その延長で「非市民の子供には市民権を与えない」ということまで言い出しているわけです。
それにしても、投票日間際の現時点でも、大統領は「暴言モード」を変えようとしません。また、批判を浴びても「世論の分裂」を煽り続けています。その理由ですが、「謝ったり、トーンダウンしたらモメンタム(勢い)を失う」ということもあるかもしれませんが、それに加えてもっと具体的な理由があると考えられます。
2016年の選挙で、トランプに勝利をもたらしたのは、「反エスタブリッシュメント」の心情に駆られて、日頃は投票しないような中西部の白人票が投票所に殺到したから、と解説されることが多いようです。
仮にそうであれば、今回の中間選挙では、「反エスタブリッシュメント」という怨念の感情を持ったコア支持者――実際には気まぐれな有権者――を、「自分ではない議会議員の選挙」に誘導しなくてはならないわけです。つまり共和党の消極的支持層の関心をつなぎ止めて棄権させないことが必要になります。
このために、まるで娯楽ショーのような演出で「べらんめえ調のヘイト演説」を繰り返し、日替わりで右派ポピュリズムとしか言いようのない「思いつきの政策」を繰り出してきているのでしょう。そして、分断を煽ることで保守層の政治への関心を喚起し、何とかして投票所に向かわせようとしているのです。
これによって、逆に離反者も出てきています。例えば、数週間前に大統領執務室を訪れて「意気投合」していたラップ歌手のカニエ・ウェストは「自分は誤った考え方に利用されていた」として、あらためて大統領への支持を見直す考えを表明しました。また、ピッツバーグでの事件、そして一方的な弔問という行動は、全国のユダヤ系の投票行動を変える可能性が考えられます。
そうであっても、トランプ大統領としては、これから投票日まで全国遊説を続けて何とか「消極支持層を投票所へ」向かわせようとする方針でいるのでしょう。
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