米中冷戦、悪いのはアメリカだ
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月5日 19時30分
今年、トランプ政権が追加関税を繰り出す以前は、アメリカの製品やサービスにとって中国は世界で最も急成長している市場だった。中国が民主主義国家にならなかったといって、その事実は変わらない。
新冷戦に経済的な妥当性がないとすれば、戦略的にはどうだろう。
やっかいなことに、アメリカは強い敵を必要としているようだ。
かつての米ソ冷戦についても、あれは果たして不可避だったのか、それともどちらか一方のせいだったのかは、これまで延々と議論されてきたテーマだ。
あまり議論されることはないが、アメリカの国家安全保障を担う官僚システムは旧ソ連が象徴する軍事的・イデオロギー的困難に立ち向かうために構築され、進化してきた。そのシステムは9・11テロ以降、イスラム原理主義を敵として再構築されたが、アフガニスタンやイラク戦争後の国家再建や対反乱作戦も含めて、取って付けたものに過ぎなかった。
名ばかりの共産主義と巨大で拡大しつつある軍隊、強引な外交政策と経済慣行を併せ持つ中国。ある意味、ソ連に続く冷戦の相手としては、イスラム原理主義よりずっと与しやすいのかも知れない。
競争相手であって敵ではない
そうだとしても、中国と敵対する必要はまったくない。中国は、アメリカと衝突してもいいという意思を見せていない。中国が武力を誇示しているのはあくまで中国の勢力圏内であって、そのアジアでさえ、日本やタイ、ベトナムなどの激しい抗議を受けているる。
中国は、19世紀前半のアメリカとよく似ている。自国で高い成長を遂げ、近隣諸国に軍事的な影響を広げ、先進国から貪欲に金を借り、技術を盗み、真似をした。そんな中国は、競争相手であって敵ではない。
中国を敵にしたい欲求がアメリカの一部にあるのは事実だが、中国との冷戦によってアメリカがどう豊かになり、どう安全になるのか、その道筋は見えない。
幸い、アメリカはまだ新冷戦の方向に大きく足を踏み出したわけではない。中国と対決するために資源を割いたわけではなく、何か大事が起こったわけでも、どちらか一方が態度を固めたわけでもない。これから新たな道筋を描くことも容易だし、アメリカはそうするべきだ。
いかに敵が欲しくても、それはアメリカのためにならない。中国と対立すれば、アメリカにとって重要な経済関係を危機にさらし、誰も得をしない軍事衝突の危険を高めるだけだ。アメリカは長い間、先制攻撃を自らに禁じてきた(よほどの場合を除いて)。中国に対してもそうであるべきだ。不必要な戦いから撤退するのは恥ではない、とくに今度のように、アメリカから始めた場合は。
(翻訳:村井裕美)
From Foreign Policy Magazine
※11月6日号は「記者殺害事件 サウジ、血の代償」特集。世界を震撼させたジャーナリスト惨殺事件――。「改革」の仮面に隠されたムハンマド皇太子の冷酷すぎる素顔とは? 本誌独占ジャマル・カショギ殺害直前インタビューも掲載。
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ザカリー・カラベル(米調査会社リバー・トワイス・リサーチ社社長)
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