安倍首相、日中「三原則」発言のくい違いと中国側が公表した発言記録
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月14日 13時0分
中国の政治を分かっている通訳者であるならば、安倍首相が「3つの原則」と言ったとすれば、咄嗟にまずいと判断して「原則」を「方針」とか「日本側の希望」とかに置き換えて通訳する場合だってあるのだ。一般には中国側が用意した通訳者が、「日本語を中国語に」通訳するので、日本語のわかる中国人が担当する。だから「原則」という言葉は避けただろう。したがって、その場合は、習近平や中国側には伝わっていない可能性がある。
もっとも、そこには王毅外相や程永華駐日中国大使も同席していたので、二人とも日本語のレベルはかなり高く、聞き取れていたかもしれない。そして通訳が他の言葉に置き換えたことも理解しているかもしれない。
あるいは、日本側通訳者も、中国語は十分に分かっているはずだから、中国側通訳者が安倍首相の言った「原則」という言葉を「希望」に置き換えたということも、聞き取れたはずだ。
この「言った、言わない」は、通訳者に聞けばすぐわかるが、しかし通訳者には守秘義務があるので、当然、外部には言わない。
それでも安倍首相および官邸関係者は、通訳者に「原則をきちんと中国語に翻訳したか否か」を尋ねることはできるだろう。
習近平が「うなずいているように見えた」というのであれば、それは「確認し合った」とは言わない。相手が、タイムラグのある通訳が言っている、どの言葉にうなずいたかは分からないからだ。CCTVを見るとイヤホンで同時通訳を聞いていたようだが、習近平がうなずいたというしぐささえ、少なくとも画面には出て来ていない。
対談中に習近平が反対意見を言わなかったことを以て「確認した」とするならば、それは少々安易と言わねばなるまい。
前述したように「互いに脅威を与えない」というのは、何年も前から中国がくり返し日本を批判するときに言ってきた言葉なので、習近平のこの発言を以て、「意思確認ができた」とするのは、少し違うように思われる。
何よりも、CCTVや新華網の報道に、会談中の安倍首相の言葉として、一文字たりとも「原則」という言葉が出ておらず、「希望」という言葉しか出て来ない事実を見る限り、中国側は安倍首相が対談中に「3つの原則」という言葉を使ったと認めてもいなければ、「確認し合った」と認識もしていないことを読み取ることができる。
もっとも、筆者にとって気になるのは、安倍首相が明確に「一帯一路」に関して「協力を強化する」と言っていることではあるのだが......。そして、安倍首相は心の中では「3つの原則」を念頭に置きながら、その骨子を述べたということなのだろうという印象を、個人的には抱いているが......。(なぜ今ごろになって会談に関して書くかと言うと、ペンス副大統領に対して、安倍首相がどのように報告したのかが気になったからである)
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
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