それでも「アラブの春」は終わっていない
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月14日 16時0分
現状には希望も持てる。カショギの残虐な殺害に人々が怒りをあらわにしたことで、今でもまだ踏み越えてはいけない一線があることが分かった。多くの証拠から、外国で暗躍するサウジ殺人部隊がカショギを拷問して殺し、遺体を切断したことは明らかだ。こうした犯罪は国際的な基準、モラル、法律の全てに反し、加害者が裁かれなければ国際秩序が脅かされる。
言うまでもなく私たちはカショギの死に対して公正な裁きを声高に求めるべきだ。しかし、それ以上に重要なのは数週間後、数カ月後に同様の事件が繰り返されるのを許してはならないこと。カショギの死を無駄にしてはならない。
物語はまだ終わっていない。大きなうねり――アラブの春よりもはるかに大きなうねりが胎動している。地域の文化や歴史的背景と関わりなく、普遍的なモラルとして民主主義を守らなければならない。欧米諸国は中東外交を見直し、抑圧的な政権の実態に目を向けるべきだ。辛うじて保たれている世界秩序を維持する、あるいは立て直すには、それが不可欠だ。
アラブ世界で根底的かつ持続的な変化が起きている今、単純に古い秩序に回帰するわけにはいかない。欧米諸国はいくら頰かむりを決め込もうとしても、中東で起きている事態を無視するわけにはいくまい。民主化を求める闘いは下火になるどころか、燃え盛ろうとしている。
<本誌2018年11月13日号掲載>
※11月13日号(11月6日売り)は「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」特集。サラエボの銃弾、真珠湾のゼロ戦――世界戦争はいつも突然訪れる。「次の震源地」から読む、日本人が知るべき国際情勢の深層とは。
アムル・ダラグ(元エジプト計画・国際協力相)
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