米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月3日 13時30分
そのクァルコがオランダの大手半導体メーカーであるNXPを買収しようと計画したのは2017年初頭のことだ。
習近平政権が2015年5月に「中国製造2025」を発布して、2025年までに中国が必要とする半導体の70%の自給自足を完遂させようと走り始めた矢先のことである。2025年までは何としてもクァルコムの支援が必要だった。
しかしトランプ政権になってから中国のハイテク産業への締め付けが厳しくなってきた。クァルコムの存在は中国にとって不可欠なほど重要だったのに、アメリカ議会は国防権限法を可決してZTEとの取引を禁止してしまった。
それに伴いクァルコムのジェイコブス会長兼CEOの名前は、今年10月末に顧問委員会リストから消えてしまったのだ。
つまり、中国は何としてもクァルコムを中国を中心として事業展開する半導体メーカーに留めておきたかったのに、それが許されなくなった以上、クァルコムがNXPを買収して拡大することなど、容認できないと考えたのだろう。だから独禁法を理由に買収に反対したのだが、習近平はこのたび、「クァルコムが再度買収の意思表示をしたら承認します」と、トランプに直接告げたわけである。これは一種の降参だ。
その埋め合わせは日本を使って
しかし、その埋め合わせを習近平はきちんと計算している。日本に接近し、日本からの半導体を輸入することによって2025年までを持たそうとしているのである。もちろん、日本にはクァルコムに相当したようなハイレベルの半導体を製造するだけの技術はない。その技術を持っているのは中国の民間企業である華為(Hua-wei、ホァーウェイ)専属の子会社ハイシリコンである。しかしハイシリコンはホァーウェイに対してのみ半導体の成果を提供し、絶対に他社には渡さない。
そこで中国は、11月23日のコラム<米中対立における中国の狡さの一考察>で触れたように、清華大学の校営企業から出発した「清華紫光集団」(ユニグループ)が買収したスプレッドトラムや長江ストレージなどに集中的に投資して「紅い半導体」の強化を図ろうとしている。ユニグループは今では中国政府との混合所有制を実施していて、一種の国有と位置付けてもいい存在だ。
ZTEを見放したわけではないが、その代替を「清華紫光集団」に賭け、アメリカからの締め付けによる半導体業界全体の欠損は、日本との交流で埋め合わせる算段なのである。
それも「用済み」となる日は、まもなくやってくる。
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