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犬が飼い主の悪夢になるとき

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月3日 18時0分

犬が飼い主に心を開かないのも無理からぬケースもあるかも知れない。虐待は、動物と人間の絆を弱め、関係に深刻なダメージを与える。電気ショックを与える首輪で猟犬としての訓練を受けていたブリタニーを例に挙げよう。この犬はある日、ベッドの下に隠れて震えているのが見つかった。そして無理やり引っ張り出そうとした飼い主に噛みついた。飼い主の自業自得だと言われるだろうが、この犬の行動はまさに、飼い主に向けられた「恐怖性攻撃行動」だった。

昔の心の傷を引きずるのは犬も同じ

この例では飼い主による虐待と犬の問題行動の間に直接的な因果関係があったが、ラッカスの例は虐待では説明がつかない。リックがラッカスを虐待したことは一度もなかったからだ。最も考えられるのは、成長期(生後3~4カ月)に人間の男性から深刻な虐待を受け、それが忘れられなかった(まるでPTSDのように)という可能性だ。

私が著書『うちの犬が変だ!』で取り上げたジャーマンシェパードは、男性の飼い主を恐れてはいたが攻撃はしなかった。ラッカスの場合と同じで、原因は飼い主の行動ではなく、以前に他の男性たちからひどい扱いを受け、それが男性全般への嫌悪という形で残っていたのだ。

だがこの犬の反応はラッカスと違い、能動的でも攻撃的でもなかった。攻撃行動に出ることなく、ただ純粋に恐怖心を示していたのだ。たぶん、生まれつきのおとなしい性格が理由だろう。飼い主の男性が帰宅すると、犬は隠れてしまい男性が家を出るまで姿を現さなかった。飼い主の男性とまったく交流を持とうとしなかった。ある特別な状況を除いては......。

時間と手間をかけて向き合おう

男性の妻は糖尿病を患っていたのだが、ある夜、低血糖に陥った(非常に危険な状況だ)。犬はベッドの男性側に走って行き、男性が目を覚まして緊急事態に気づくまで寝具を引っ張った。妻に対する犬の愛情が、恐怖心を乗り越えて助けを呼ぶ行為へとつながったのだ。勇敢であるとは恐怖心がないことではなく、恐怖心と戦う覚悟を持っていることだ。この基準で行くと、この犬はこの上なく勇敢だった──たとえ男性の飼い主がいない方が暮らしやすいと思っていたとしてもだ。

だから「犬は人類の最良の友」で「無条件に愛を注いでくれる」という表現は、飼い主と犬の相性がよく、飼い主が犬に十分な時間を割いて関心を向け、「お前は大事に思われている」と犬に伝えられている場合だけにあてはまるといえよう。長い散歩をさせ、たくさん遊び、規則正しくえさをやり、明快なコミュニケーションを取り、きちんとリーダーシップを取って愛情を注げば、誰もが憧れるような犬が育つはずだ。

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