資本主義に逆行するトランプ政権「アメリカ・ファースト」の誤算
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月18日 16時30分
だから今年、オハイオとデトロイト(ミシガン州)で製造コストが採算ラインを上回ったとき(その一因はトランプが鉄鋼製品などにかけた輸入関税だ)、GMはメキシコへの製造拠点移転を加速させた。
11月下旬のGMのリストラ発表を受け、トランプはGMに中国工場を閉鎖するよう要求した。だが、ここでもトランプは、株主ファーストのグローバル資本主義を理解していないようだ。GMの中国工場で生産される車の大多数は、アメリカではなく中国市場向けなのだ。
しかもGMの中国における生産台数は、アメリカにおける生産台数を上回る。「中国はGMの戦略のカギだ」と、GMのメアリー・バラCEOは言う。実際、トランプが米中貿易戦争をあおっても、GMは中国における電気自動車(EV)や自動運転車、そしてライドシェア技術に積極的に投資してきた。
このことは、「アメリカ・ファースト」という経済ナショナリズムの第3の誤りも明らかにする。トランプは中国が米企業から技術を盗んでいると非難するが、GMら米大手企業は、それでも中国に投資したがっている。株主ファーストのグローバル資本主義では、技術は国家に属するものではないのだ。
「アメリカを再び偉大な国に」と、「アメリカ企業を再び偉大に」とでは全く別の問題だ。アメリカを拠点とするグローバル企業は絶好調であり、その株主もまた同様だ。本当に難しいのは、「アメリカの労働者を再び偉大にすること」だ。
アメリカの労働者は、どんな仕事でもあればいいと思っているわけではない。「いい仕事」、つまりGMの組合労働者たちが半世紀前に就いていたような仕事を求めている。しかしほとんどのアメリカ人の実質賃金は、ここ数十年上昇していない。
これに対して中国の大手企業は、国有金融機関の資金に依存している。つまりこれらの企業の目的は、中国の国益を増進することだ。この国益には、中国における良質の雇用を増やすことが含まれる。
株主ファーストのグローバル資本主義の世界に、「アメリカ・ファースト」という経済ナショナリズムの居場所はない。もしトランプが本気でアメリカの労働者を再び偉大にしたいなら、投資家の企業に対する締め付けを緩和し、組合労働者の発言力を強化するべきだ。
<本誌2018年12月18日号掲載>
※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。
ロバート・ライシュ(カリフォルニア大学バークレー校教授、元米労働長官)
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