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年代別「悩みのタネ」から見えてくる、日本社会の大きな偏り

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月19日 16時15分

<日本人の「悩み・ストレス」をグラフ化すると、40代後半以降の女性に育児・介護の負担が偏っていることがわかる>

「人生山あり谷あり」と言うが、人がたどる人生の行程(人生行路)は決して平坦ではない。若年期には、入学試験、就職、結婚、出産といったライフイベントがある。社会が複雑化し多様な人間関係を取り結ぶようになると、それに伴う軋轢も増加する。前近代社会のように、生まれ落ちた身分(地域)に相応した「生きる指針」もない現代社会は、人生の選択の余地が多分に開かれている。社会の発展に伴って、人々の心的葛藤(悩み)が増えるのは道理だ。

2016年の厚生労働省の調査によると、15歳以上の国民の48.9%が何らかの悩み・ストレスを抱えると答えている。どういう悩みかを問うと、最も多いのは「自分の仕事」に関することで、2位は「収入・家計・借金等」、3位は「自分の病気や介護」に関することだ。高齢期になると、3番目の項目の比重が増してくる。

悩みやストレスがある人に、どういう悩みかを複数回答で答えてもらった結果を年齢層ごとにつないでみると、人生の各時期の悩みを一望できるグラフ<図1>が出来上がる。



入試がある10代後半では、受験・学業の悩みが幅を利かせている。その次は家族以外との人間関係だが、いじめの悩みもこれに含まれると思われる。20代になり就職すると「自分の仕事」が首位になり、生産年齢にかけてそれが継続する。住宅ローンを組み、子どもの教育費もかさむようになるため、加齢に伴い「収入・家計・借金等」の悩みも頭をもたげてくる。30~40代では育児・教育の悩みも多い。40代後半から自分ないしは家族の病気・介護の幅が広がり、高齢期ではこれらが全体の半分以上を占めるようになる。統計は正直で、各ステージの危機や困難が実にはっきりと出ている。



女性に限ると、育児・家事・教育の悩みの比重が男性よりもずっと多くなる。家族の病気・介護の悩みも同じだ。これらの悩みがある人の実数を比べると分かりやすい。<図2>は、それをグラフにしたものだ。



家族関連の4つの悩みだが、どれも男性より女性ではるかに多くなっている。子育てのさなかの30代後半で「女性/男性」の倍率をとると、育児は6.5倍、家事は10.8倍、子どもの教育は4.0倍、家族の病気・介護は1.9倍となる。これらの負担が女性に偏っていることの証左でもある。40代後半女性では、子どもの教育と家族の介護の悩みが共に多く、「育児+介護」のダブルケアに疲弊していることもうかがえる。男性の家事分担、家族ケアの外部化が進んでいる欧米諸国では、ここまでいびつな結果にはならないのではないか。

われわれは今、激変の時代にいる。社会が変わっても、制度がそれに見合う形に変化するまでは一定の時間がかかる。このタイムラグの時期(過渡期)に、危機や困難は噴出する。<図2>に示される結果は、女性の社会進出が進んでいるにもかかわらず、子育て支援が不足している(保育所の不足など)現実だ。元号が変わる来年が、こうした問題が解消される元年になることを願いたい。

<資料:厚労省『国民生活基礎調査』2016年>


舞田敏彦(教育社会学者)

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