中国が月で発芽させた綿花は一夜で枯れていた
ニューズウィーク日本版 / 2019年1月17日 14時20分
<人類が地球以外の星に住むためには「地球の生態系」を運べることが不可欠。これはそのための小さな一歩>
中国が月の裏側で綿花の種子を発芽させることに成功した翌日、早くも芽が枯れていたことが分かった。
中国国家航天局(CNSA)は1月15日、月の裏側に着陸した探査機「嫦娥4号」内で綿花の種子が発芽したと発表した。だが月の裏側に夜が訪れると、実験はあえなく終わった。発芽した綿花の種子は「ミニ生物圏」実験の一部で、ほかにも小さな動植物が月に持ち込まれた。
動植物は月面に置かれたわけではなく、嫦娥4号に積んだ密封した金属の容器に入れられていた。容器の中には水と土と空気があり、そこに小さな生態系が生まれ、維持されるかどうかを調べることが実験の目的だった。生態系の形成のために選ばれた種は、綿花の種子のほか、酵母菌、ミバエの卵、セイヨウアブラナやジャガイモ、アブラナ科の植物ヤマハタザオの種子などだ。
容器には太陽電池が付いているが、夜間には機能しない。月面はマイナス170℃まで冷えることもあるため、芽が生き延びられないのは想定済みだった。
「容器の中の生物は、月の夜には耐えられないかもしれない」と、実験を率いた重慶大学の謝更新・先端技術研究所長は新華社に語っていた。
専門家は高く評価
CNSAによると、容器内の生物は徐々に分解されるが、密封されているため月の環境を汚染する心配はない。ほかの植物は発芽せず、ミバエの卵が1個でも孵化したかどうかは不明だ。
すぐに終わったとはいえ、歴史的な意義をもつ実験だったと、専門家は高く評価している。月に有人宇宙探査の足場となる基地を建設するアイデアは以前から盛んに議論されており、この実験はその実現可能性を探る試みでもあった。
宇宙空間で植物を栽培できれば、宇宙飛行中に食料ばかりか、燃料や衣服なども調達できる可能性がある。そのため、これまでにも国際宇宙ステーション(ISS)などで植物の栽培実験が繰り返し行われてきた。
中国は「科学にとって非常に象徴的かつ興味深い」試みを成し遂げたと、米惑星科学研究所のデービッド・グリンスプーンは言う。
「地球の周回軌道上では植物が生育できることが分かっているが、地球外で初めて発芽を確認できた意義は大きい」
地球の生態系を持ち込む技術が必要
グリンスプーンは、初めて月面に降り立った宇宙飛行士の言葉をもじり、「これは、植物にとっては小さな一歩だが、人類にとっても小さな一歩だ」と述べた。「いつの日か人類が太陽系を飛び出して、よその惑星に移住するには、地球の生態系を持ち込み、維持できるノウハウを知る必要がある」
グリンスプーンによれば、今回の実験では地球外で植物を栽培できる可能性がほの見えただけで、移住計画はまだまだ遠い先の夢だ。
「植物は人間なしでは月や火星に行けないが、人間もまた、植物その他の無数の生物なしでは、たとえ火星に行けたとしても、定住はできない」と、彼は言う。
「地球の生物圏をまるごと地球外に持ち込む構想は、エンジニアが考えるよりはるかに困難だろう。生命について、また生物の共生関係について、もっともっと学ぶ必要がある。中国の実験はほんのささやかな一歩だ」
アリストス・ジョージャウ
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