ウイグル弾圧は中国宗教迫害の序章なのか
ニューズウィーク日本版 / 2019年1月18日 17時10分
食べ物は往々にして衝突の火種になってきた。ウイグル人の若者がしばしば文化的抵抗の証しとして非ハラールの店での飲食を拒む一方、新疆ウイグル自治区では、イスラム教が禁じる豚肉を強制的に食べさせる行為が日常化している。
イスラム嫌いの中国人にしてみれば、都合を押し付けているのはイスラム教徒のほうだという不満がある。そうした心理の背景には複数の不安が潜む。
中国人は食の安全に神経をとがらせている。中国語でハラールを指す「清真」は、文字どおりには純粋で清潔という意味であることから、ハラール食品の消費者は特権的立場にあるとの見方や、漢族は汚いと思われているとの考えが生まれた。それが、少数民族は政府によって優遇されているという漢族の根強い意識と絡み合う。
イスラム嫌悪には別の理由もあるのかもしれない。新たに台頭する漢族ナショナリズムには、国内で敵視する対象が不可欠だ。中国国民のうち圧倒的割合を占める漢族のナショナリズムは、一般市民レベルでも政策レベルでも露骨な高まりを見せ、政府の言説は民族ナショナリズム傾向を加速させている。
新しく形成されたアイデンティティーは多くの場合、強力な敵という存在の上に成り立つ。その役割にぴったりなのがイスラムだ。異国のものと見なされながら、それは中国各地に存在する。その教義は国家にとって容認不可能であり、テロを連想させるものでもある。さらに漢族の大多数は文化的にも政治的にもそれに魅力を感じない。
中国のイスラム教徒にとって、自らの信仰や歴史が敵視の的に転じた現状は既に悲劇的だ。だが事態はこれから、さらに悲惨なものになるかもしれない。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2018年01月22日号掲載>
※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。
ジェームズ・パーマー (フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)
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