「こんまり」人気の深層──片づけは不眠や不安や肥満さえ癒す
ニューズウィーク日本版 / 2019年1月23日 20時0分
今年こそ整理整頓の行き届いた生活をしよう、と多くの人が新年の誓いを立てたはずだ。ふたのないタッパーや片方だけの靴下でいっぱいの引き出しは、もう見たくない。
片づけブームを巻き起こしているのは、日本の片づけコンサルタント近藤麻理恵(通称こんまり)だ。彼女の片づけ本は世界的なベストセラーになり、今年からネットフリックスでリアリティ番組もスタートした。
こんまりの教えに従い、「ときめき」を感じない品々、または自分が思い描く理想の未来に居場所がない衣服や本、家庭用品を捨てる人が増えた結果、セント・ビンセント・デポール協会のような慈善団体に寄付される品の数が前年比で38%も増加したという報告がある。
近藤の「こんまりメソッド」を使うかどうかはともかく、このお片づけブームには乗るほうがいい。ガラクタの山は私たちの不安度や睡眠、集中力に悪影響を与えるからだ。
散らかった環境に身を置くと、生産性が低下し、ジャンクフードの過剰摂取やテレビ番組(お片づけ番組であっても)の見過ぎといったストレス対処行動や逃避に陥りやすくなる。
私自身の研究でも、私たちを取り巻く物理的な環境が、他者との関係を含めて、私たちの認知、感情、そしてその後の行動に大きな影響を与えていることがわかった。
ガラクタはなぜ脳に悪い?
モノであふれそうな食器棚や家のあちこちに積み上げられた紙の山は、無害に見えるかもしれない。でも、無秩序と乱雑さは私たちの脳に累積的な影響を与えることが科学的な研究で証明されている。
人間の脳は秩序を好む。乱雑な光景が視覚からの情報として常に入ってくると、人間の認知力は消耗し、集中力は低下する。ガラクタの山を見ると、認知の負荷が過剰に増大し、作業記憶が減退する可能性がある。
2011年には機能的磁気共鳴画像法(fMRI)やその他の生理学的測定装置を使用した神経科学の研究が行われ、家庭や職場環境からガラクタを取り除くと、集中力、処理能力、生産性が向上することがわかった。
心身の健康にも悪影響
乱雑な環境はストレスを高め、不安や落ち込みの原因となる。2009年にアメリカで行われた研究では、散らかった家に住んでいる母親の方がストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが高かったという。
慢性的に散らかった家庭環境は、「闘争か逃走反応」という無駄にエネルギーを消費する原始的な心身の反応を引き起こしかねない。この反応は、感染症との戦いや食物の消化に影響を与える身体的および心理的変化の引き金となるばかりでなく、2型糖尿病や心臓病の危険性を高める恐れもある。
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