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東大理3はコンピューター科学専攻にすればいい - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年1月24日 14時40分

もちろん、東大はその点を警戒しているのだと思います。少し前から理3だけは面接試験を課しており、恐らく医師への適性が希薄な人材、「志なき卓越」を目指しているだけの人材は出来るだけチェックするようにしているのでしょうし、静かにスタートした推薦入試制度で、理3についても毎年2~3名の合格者を出しています。それなりの工夫はしているのです。



ですが、理3というのがさらに社会的ブームになり、そこに「志はともかく、とにかく卓越性の証明」としてチャレンジしてくる人材が増えるのでしたら、この際ですから制度を変えてみてはどうでしょう? 東京大学として医学部医学科進学は、昔のように理科1類・2類から選抜することにして、理科3類については医学部進学ではなく、理学部情報科学科あるいは工学部電子情報工学科への進学を前提にして募集してはどうかと思うのです。

つまり何でもいいから「最も卓越した」グループを目指すという学生は医師ではなく、コンピューター・ソフトウェアの技術者になってもらうのです。医師というのは、確かに人の命を扱うだけに極めて優秀な頭脳が必要なのは事実です。ですが、生命倫理の問題など哲学レベルの信念が要求されたり、一方で患者やその家族との複雑なコミュニケーション能力も必要とされます。同僚とのチームワーク、健康や時間の自己管理など実務能力もサバイバルのためには必要です。とても「志」がなくてはやっていけません。

一方で、ソフトウェアの技術者というのは適性が問われるものの、その世界におけるシンプルな卓越性の先に社会貢献が描けるという意味では、いい意味での単純さがあります。「何でもいいから最高峰」を目指す種類の、つまり18歳の段階では具体的なキャリア構想に至っていない若者にもドンドン参加してもらっていい分野だと思います。

医師の場合は、真の適性がないままに現場に立てば、もしかしたら本人も患者も不幸になるような結果もあり得ますが、ソフトウェアの場合は国際的な競争の中で負けるだけで、特に被害者が出るわけでもありません。

何よりも、長年にわたってコンピューター技術者蔑視を続けてきた結果、それが経済的な衰退の一因になっている日本社会にとって、最高レベルの「地頭(じあたま)」を持った若者がこの分野に結集するということは、社会に一石を投じることになると思います。

その場合は、「140年の歴史を誇る」東大としては、単にソフト技術専攻だけでなく、副専攻として生命倫理、情報社会学、経営学、統計学、数学などコンピューター利用を支える「人間側のツール」の部分の研究も必須として課してはどうでしょうか。

よく考えると、例えばアップル社が「メディカル」の領域を今後の経営方針の核に据えているように、コンピュータを学ぶ方が医学の進歩への貢献になるかもしれない、そんな時代でもあるのです。

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