中国の量子通信衛星チームが米科学賞受賞
ニューズウィーク日本版 / 2019年2月18日 12時40分
月の裏側に行くことよりも、実は、このラグランジュ点にピンポイント的に衛星を打ち上げて「宇宙で固定しておくこと」の方が遥かに困難だ。
そこで、今年1月16日付のコラム「米中月面基地競争のゆくえは? 中国、月裏側で植物発芽成功」に書いたように、アメリカの科学者が「是非とも、中継通信衛星・鵲橋号を使わせてほしい」と申し出てきた。「アメリカも月の裏側に着陸したいが、中継通信衛星を打ち当てることが困難なので、中国が利用し終わっても、どうか回収しないでアメリカに使わせてほしい」というのが、その科学者の申し出の内容だ。
「中国は喜んで承諾した」と、中国工程院の院士で中国月探査総設計師(リーダー)の呉偉仁氏が述べている。
これは、まずいではないか。
月裏面探査にしても、量子暗号や量子通信衛星にしても、宇宙領域で中国が一歩先を歩んでいる感が否めない。
AI(人工知能)に関しても、中国は2017年から巨大な国家戦略が動き始めているのに対して、トランプ大統領は今年2月11日になって、ようやくAIの開発と規制を促進する大統領令「American AI Initiative」に署名した。
しかしビッグデータを持っているアメリカ側のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のうち、「AppleとFacebook」は習近平に抱き込まれていることは、昨年12月27日付けのコラム「GAFAの内2社は習近平のお膝元」に書いた通りだ。アメリカは出足が一歩、遅い。
もうすでに、習近平が指名したAI特化5大企業BATIS(Baidu、Alibaba、Tencent、Iflytek、Sense Time)(参照:2月12日付けコラム「中国のAI巨大戦略と米中対立――中国政府指名5大企業の怪」)とGAFAとは対立軸を形成し得ないのである。
こんなことでいいのか。
いま中国を抑え込まなければ、すべてが手遅れになって、中国が既成事実を作ってしまい、言論弾圧を強化する一党支配の共産主義国家が人類を制覇してしまうことになる。
トランプに期待しているのだが、どうも方向性が少しずつずれているように思われてならない。
国境の壁の構築や非常事態宣言など、民主主義国家の代表であるはずのアメリカが閉鎖的で全体主義的傾向を帯び、独裁国家であるはずの中国が「自由貿易」だの「グローバル社会」だのと言っては周辺諸国を惑わせている。日本はその惑わされている諸国の中の一つになりつつあるのが、なんとも嘆かわしい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
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