統計不正を追及する前に、そもそもなぜ日本の賃金は下がったのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2019年2月19日 17時30分
<日本の賃金が下がったのは、日本の産業が負け続けているから――生産性向上と同時に本質的な産業構造の転換を図らなければ日本経済は上向かない>
毎月の勤労統計、賃金統計など、厚生労働省の統計について多くの不正が発覚し、批判を浴びています。確かに、こうした不正は全く良いことではありません。ですが、これを機会に「統計を扱う要員を増やせ」とか、中には厚労省は忙し過ぎるので分割しようなどという「焼け太り」を狙う提案もあるようです。これはいただけません。
勤労統計や賃金統計というのは、いわばルーチンです。正しいデータを提出することを民間に義務付ける、その際に紙ではなくデータで電送させ、信ぴょう性のある元データが毎月リアルタイムで揃うようにする、その上で「統計を理解した専門の担当者」が管理するようにすれば、何千人などという要員は必要ないはずです。
人手が必要になるのは、例外処理が発生するような運用がされていたり、紙のデータを受け付けるなどの非効率を許していたりするからです。今回のスキャンダルを機会に、仕事の進め方をより標準化、簡素化、迅速化すれば、コストも含めて効率化を達成しつつ、データの信頼度を回復することは可能だと思います。
ですから、そもそも「統計担当の人数を増やせ」などという野党の批判は、ほとんどナンセンスだと思いますが、それ以上にナンセンスなのは、この問題を深追いするあまり、「そもそもどうして賃金が下がったのか?」という重要な論点を忘れていることです。
それでは、どうして日本の賃金が下がったのでしょうか?
現象面から言えば、80年代までは正規労働だった職種がどんどん非正規になっていったとか、初任給水準が30年近く据え置かれ、さらにはその後のベースアップも極めて低水準だったので、世代が若くなるにつれて年齢別の年収が猛烈に低くなっていることがあります。
ですが、こうした現象面は結果に過ぎません。
そうではなくて、日本の経済が負け続けているからです。
例えば、家電の最終組み立てという業種があります。80年代までは日本は世界の先端を行っていました。ですが、今は世界の工場としての地位は中国に取られてしまっています。最初のうちは、日本で研究開発した製品を中国に作ってもらっていました。ですが、白物家電などは、どんどん中国や他国のメーカーにシェアを奪われています。
一方で、最終消費者向けの製品は景気変動があるので、「B2B」つまり企業向けビジネス向けの製品にシフトするという企業もありました。ですが、鉄道車両にしても、電力にしてもうまくいっていません。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
平社員のままのほうがコスパがいい…日本企業で「管理職の罰ゲーム化」が進行している根本原因
プレジデントオンライン / 2024年3月18日 9時15分
-
経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(上)
東洋経済オンライン / 2024年3月13日 8時0分
-
日銀「マイナス金利解除」は遅くても4月末か 専門家が解説
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月8日 11時35分
-
なぜ日本人の賃金は「韓国以下」に落ちたのか…変化を嫌い、競争を避ける「日本のダメすぎる2大悪習」
プレジデントオンライン / 2024年3月7日 7時15分
-
「転職で給料が増えた」過去最高を更新。転職するならタイミングは今?
ファイナンシャルフィールド / 2024年2月20日 2時20分
ランキング
-
1北朝鮮が衛星発射「準備中」=ロシアにコンテナ7000個超―韓国国防相
時事通信 / 2024年3月18日 20時1分
-
2台湾けん制、北朝鮮擁護も=中国外務省の新報道官
時事通信 / 2024年3月18日 19時48分
-
3北朝鮮、発射は「超大型放射砲」 6発一斉、金正恩氏が訓練指導
共同通信 / 2024年3月19日 9時34分
-
4バイデン政権 4月11日に日米比首脳会談と発表 中国念頭に3カ国協力を拡大
産経ニュース / 2024年3月19日 10時16分
-
5習氏、プーチン氏の大統領選勝利に祝意 中ロ関係強化へ
ロイター / 2024年3月18日 19時38分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください