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『万引き家族』のアメリカでの高評価をどう考える? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年3月12日 19時10分

一方で、日本での批評サイトを見ますと、かなりの割合で「犯罪を肯定している」とか「こんな不道徳な映画を輸出するのは日本を貶めることになる」などといった拒絶反応が見られます。



これは、アメリカの観客が素直で良質である一方で、日本の観客には偏見があったり抽象的なテーマへの無理解があるのでしょうか?

それは違うと思います。アメリカでの評価は、「文学的な外国語映画を字幕付きで見る」という極めて限られた人「しか」この作品を見ていない中で起きたものです。もちろん作品の評価として高いというのは立派なことですが、限定された観客層の中での高評価であることは明らかです。

一方で、日本の場合は、自分の国の自分の言語による作品という要素も大きいわけですが、これに加えて、カンヌ受賞への関心や、著名な俳優が出演している話題性などの理由で、文芸映画を見慣れていない人々も含めて幅広い層が映画館に足を運んだのだと思います。拒絶反応があるのは、そのためでしょう。

また、日本の場合は家族、規範意識、セクシャリティーといった問題に関する価値の多様化が進んでいます。アメリカでも進んでいますが、軸となる価値観は残っています。ですが、日本の場合は各人のホンネの部分における価値観や感性というのは、見事なまでに多様化しています。ですから、文芸映画を見慣れていて、抽象的なテーマを扱うのに慣れている人の中でも、この映画に対する評価には幅があるようです。

ですから、この作品は「国内よりも海外で評価された」というのは、正確な理解ではないと思います。そもそも鑑賞している母数が違いますし、その観客の属性も、日本の場合は非常に多岐にわたっているからです。

こうした違いは、是枝監督にとって不幸なのでしょうか? あるいは、国内からの拒絶反応を避けて今後は国際的な舞台での作品作りにシフトしていったら良いのでしょうか?

私はそれは違うと思います。日本国内における様々な雑音、それこそ「犯罪映画だ」という非難や「国の恥」という中傷、あるいは「本当に傷付いている人には通用しない作りモノ」といった種類の批判が、監督を鍛え、作品の作り込みを後押しているように思えるからです。

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