全米を震撼させた裏口入学スキャンダル、その驚きの手口
ニューズウィーク日本版 / 2019年3月22日 18時50分
<セレブな親たちが超高額の「賄賂」で子供を不正入学、被告の中には有名女優の名前も......>
アメリカで、米司法省が呼ぶところの「米史上最大の大学入学スキャンダル」が発覚した。
エール大学やスタンフォード大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やジョージタウン大学など一流名門校に不正な手段で子供を入学させていたとして、金持ちの家庭の親や仲介者など50人が3月12日、連邦検察に起訴されたのだ。被告となった親の中には、人気テレビドラマ『フルハウス』に出演した女優ローリ・ローフリンや『デスパレートな妻たち』の主演女優の1人フェリシティー・ハフマンの名前もあった。
成績が入学基準に満たない場合、リッチな親がいれば「裏口」から入学する道があるという話は珍しくない。一般的に、裏口入学の見返りは大学や校舎への巨額の寄付金だ。しかし今回発覚したのは、首謀者に言わせれば「通用口」からの入学だった。
不正入学を斡旋していたのは、入試コンサルティング会社の設立者ウィリアム・シンガー。シンガーは33人の親に大金を「キー・ワールドワイド財団」という偽の慈善団体に寄付させ(寄付者が課税されるのを免れるため)、それを「賄賂」として大学の試験監督者やスカウト権限を持つ大学スポーツチームのコーチなどに支払った。その総額は、11年から8年余りで2500万ドルを上回るという。
子供たちは知らなかった
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、先週行われた裁判で証言台に立ったシンガーは、「自分の力で通り抜ける正面入り口と、巨額の寄付をして入学させる裏口があるとしたら、自分がつくったのは通用口だ」と発言した。「裏口では入学は必ずしも保証されていない。そこで、入学が保証される通用口をつくったところ、多くの家族が使いたがった」
驚くのは起訴状で明らかになった手口だ。あるケースでは、子供が大学進学適性試験SATとACTを受ける際の試験監督に賄賂を渡し、試験中に答えを教えたり試験後に正解に書き換えたりさせた。別のケースでは子供に学習障害があると偽り、試験時間を延長させたり別室で受験させたりした。
また、大学のスポーツチームのコーチを買収したケースでは、子供を未経験のスポーツの特待生にしてもらうため、シンガーの同僚が本物のスポーツ選手の体の写真に子供の顔をフォトショップで合成して大学側に提出していたことも発覚した。
親たちが支払った額は、1回の試験につき1万5000~7万5000ドルだという。ローフリンの場合、ボート競技が未経験の娘2人を南カリフォルニア大学ボート部の特待生として入学させるために支払った額は50万ドルに上る(2人のうち19歳の妹、オリビア・ジェイドはインスタグラムのフォロワー数が140万というインフルエンサーだ)。ハフマンは、1万5000ドルを前述の慈善団体への寄付金として支払い、試験監督に娘のSATの答えを書き換えさせていた。
検察側によれば、多くのケースで子供は親たちの不正行為に気付いていなかったという。実際、子供や大学は訴追されておらず、知らなかったとすれば子供や大学も金持ちの親バカたちにだまされた被害者ということになる。
とはいえ最大の被害者は、不正入学のせいで入学枠を逃した真面目な学生たちに違いない。
<本誌2019年03月26日号掲載>
※3月26日号(3月19日発売)は「5Gの世界」特集。情報量1000倍、速度は100倍――。新移動通信システム5Gがもたらす「第4次産業革命」の衝撃。経済・暮らし・医療・交通はこう変わる! ネット利用が快適になるどころではない5Gの潜在力と、それにより激変する世界の未来像を、山田敏弘氏(国際ジャーナリスト、MIT元安全保障フェロー)が描き出す。他に、米中5G戦争の行く末、ファーウェイ追放で得をする企業、産業界の課題・現状など。
スコット・マクドナルド
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