イスラーム国の敗北と、トランプがゴラン高原「イスラエルに主権」に署名した関係
ニューズウィーク日本版 / 2019年3月26日 12時30分
シリア内戦下の混乱を経て原状回復したゴラン高原だったが、「もっとも安全な紛争地」ではなくなった。シリア政府の優位が確実となるなか、反体制派との戦いを勝ち抜いた「イランの部隊」の存在がイスラエルにとって脅威となったからだ。「イランの部隊」とは、シリア政府側が同盟部隊と呼ぶ武装勢力で、イラン・イスラーム革命防衛隊、レバノンのヒズブッラーなどを指す。
「イランの部隊」とイスラエルは、2018年に入ると挑発と報復を激化させた。「イランの部隊」は、ゴラン高原に対する無人航空機での威力偵察(2月)、ロケット弾攻撃(5月)を敢行、イスラエルは「イランの部隊」の拠点とされる拠点への爆撃・ミサイル攻撃を繰り返した。
これにはロシアも手をこまねいた。ロシアは、ゴラン高原に面するシリア南西部から「イランの部隊」を撤退させるべく外交努力を重ねる一方、シリア軍にS-300長距離地対空ミサイルを供与し、兵力引き離しを試みた。だが、一触即発の状態は続いた。
イスラーム国の敗北と同時期に、決断が下された理由
こうした情勢を踏まえて、ゴラン高原の処遇をめぐるトランプ大統領の決断の意味を考えると、そこには、シリアをめぐってイスラエルとの連携を強めることで、イランを牽制しようとする意図を読み取ることができよう。
事実、米国もイランへの警戒感を強めている。米国は、ダマスカスとイラクの首都バグダードを結ぶ国際幹線道路上に位置するタンフ国境通行所(イラク側はワリード)一帯地域(いわゆる55キロ地帯)に部隊を駐留させ、同地を事実上占領している。その理由は、レバノン首都のベイルートとイランの首都テヘランが陸路で結ばれ、イラン版「一帯一路」が開通するのを阻止するためだとも言われている。
だが、より注視すべきは、シリアでのイスラーム国の敗北と時を同じくして、決断が下された点である。
クルド民族主義勢力の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍は23日、イスラーム国最後の支配地だったバーグーズ村(ダイル・ザウル県)を完全制圧し、勝利宣言を行った。トランプ大統領も22日、「イスラーム国は100%敗北した」と表明した。
トランプ大統領は昨年12月19日、米軍をシリアから撤退させると発表した。この方針は、政権内や同盟諸国から強い反発を受けて、今年2月下旬に事実上撤回され、米軍駐留は当面続く見込みだ。
米政権の高官らは、イスラーム国に対する勝利宣言後も「根絶に向けてさらなる行動を続ける」と強調し、スリーパーセル摘発やテロ再発防止への意欲を示す一方、イランの脅威の排除、政治移行の実現といった大義を掲げ、介入継続の必要を力説する。だが、こうした回りくどいロジックは、単刀直入な思考様式を特徴とするトランプ大統領には馴染まず、彼が再び撤退と言い出さないとも限らない。
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