子どもを肥満にさせる「欠食・孤食」と家庭間格差
ニューズウィーク日本版 / 2019年3月27日 15時40分
<10歳児の肥満の割合はこの40年で2倍近くに......急増の背景にあるのは食生活の歪みと家庭環境にリンクした「健康格差」>
「食」は人間の基本的な営みだが、今ではそれがおろそかにされている。朝食欠食率は上昇傾向で、塾通いの子どもが夕食をファストフードで済ますのは日常茶飯事。これでは頭が訓練されても体は蝕まれる一方だ。
子どもの肥満率の増加は、その一端に他ならない。10歳児で見ると、肥満傾向の児童の割合は1977年では5.9%だったが、2018年では9.0%に増加している(文科省『学校保健統計調査』)。外遊びや運動時間の減少もあるだろうが、食生活の歪みの影響も否めない。
実際、食生活と体型は相関している。今世紀初頭に生まれた子ども(約2万人)を追跡する厚労省調査では、思春期に達した13歳児の食生活と体型を明らかにしている。<表1>は、両者を関連付けたものだ。グループごとの肥満率をパーセンテージで出している。
朝食の欠食群、夕食の欠食群・孤食群ほど肥満の率が高い。女子はその傾向が明瞭で、直線的な相関関係にある。朝食を食べるグループでは3.8%だが、食べないグループでは14.7%にもなる。夕食にしても、家族と食べる群は3.0%なのに対し、孤食群は6.6%、欠食群は13.5%となっている。
これは思春期の13歳児のデータだが、太るのを恐れて、朝食を抜くのは逆効果のようだ。朝食を抜くと、昼食で摂取したカロリーが過剰に蓄積されて肥満になりやすいという。一方の孤食では、自分の好きなものばかり食べて栄養が偏りがちになる。
こうした食生活の歪みは貧困家庭で起こりやすく、家庭環境とリンクした「健康格差」現象も生じている。貧困と肥満の関連を示した公的な調査はないが、東京都内の地域統計からそれをうかがい知ることはできる。小学生の「肥満傾向児率」を都内23区別に計算し、地図に落とすと<図1>のようになる。大都市・東京の子どもの肥満率マップだ。
0.21%から2.34%までの開きがある。相対水準で23区を塗り分けると地域性が明瞭で、北部が濃い色で染まる。台東区、墨田区、板橋区、足立区、葛飾区では、小学生の肥満率が2%を超える。23区の小学生の肥満率は、住民の平均世帯年収とマイナスの相関関係にある。貧困と肥満の結びつきのマクロ的な関連を表している。
肥満と貧困の関連については、アメリカでよく指摘されている。貧困層は安価でカロリーの高いジャンクフードに依存しがちなため、肥満になりやすいという。それと似たようなことが日本で起こってもおかしくない。母子世帯の貧困を特集した番組で、来る日も来る日も100円ハンバーガーやポテトチップを夕食にしている子どもを見たことがあるが、その典型的な例だろう。
ここで学校における食育が重要な役割を果たすことになる。また学校保健安全法では、健康上の問題がある児童・生徒に対して必要な指導を行うことと定めている(第9条)。いわゆる保健指導だが、その対象には保護者も含まれる。必要な場合、このような機会を設けて、保護者の意識を高めていく必要がある。
「食」に関する子ども自身の意識の啓発も欠かせない。子どもは学習者である前に「生活者」だ。食育や子ども食堂の実践が広がっているが、生活の根幹である「食」をコアに据えて学校のカリキュラムを編成するのも一つの考えだ。
<資料:厚労省『第13回・21世紀出生児縦断調査』(2014年)、
『東京都の学校保健統計』(2018年度)>
舞田敏彦(教育社会学者)
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