忘れるな! 4月施行の「高プロ制度」が日本の格差を拡大させる
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月11日 17時0分
社会が持続可能になるには、社会構成員すべてが適切な利益再配分を受け、生活するに十分な賃金を獲得することが不可欠だ。政府や企業が導入に必死になっている「高プロ制度」は、富める者と貧しき者の格差をさらに拡大するための、社会的正義に反する政策であるといわざるをえない。
「現代の貧困」は経営者側(と行政)が生み出した
こうして「現代の貧困」は深刻化してきているが、その端緒となったのは、なんといっても1986年の労働者派遣法施行に始まる非正規労働者の増加である。
この法律は3度にわって改正され、2006年の改正では、派遣期間の延長や労働者の福利厚生に関する権利等が盛り込まれたが、この法律の狙いは、企業が経営事情によって労働者の解雇を自由裁量でできるようにし、収益を上げられるようにすることであったといえるだろう。
非正規雇用者に対しては労働契約年数の制限で、そして、この度、正規雇用者に対しては裁量労働制(=「高プロ制度」)で、労働者解雇のための裁量権を経営者側に付与したのである。
現代の社会も産業も企業も、人間の労働によってつくりあげられた。労働者の正当な労働対価の削減やリストラなどによって、貴重な財産である「人材」を機械のごとく軽視・無視するやり方は、産業革命以降、18~19世紀の米国の悪徳資本家(「泥棒成金」)のそれに酷似している。
「貧困」は人間の労働を酷使して、独占的利益を得ようとしている経営者側が産み出しているのである。それを是正できない政府(行政)も同罪である。
経営者側が高額な報酬を取り、労働者を低賃金で働かせている現状を改革しない限り、「現代の貧困」は解消できないだろうし、さらに、国民が最低限度の豊かな社会を享受できる社会は当分、実現できないだろう。
[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『「企業と社会」論とは何か』『講座 社会人教授入門』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。
松野 弘(社会学者・現代社会総合研究所所長)
この記事に関連するニュース
-
アルバイト25年、時給1200円から上がらない現実 声優しながらバイト掛け持ち、睡眠は5時間未満
東洋経済オンライン / 2024年7月5日 8時0分
-
契約社員で「基本給20万円」だけど、「交通費」や「食事手当」の支給は“契約条件”によるの? 賞与や退職金についても解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年6月30日 5時20分
-
じつは「氷河期問題」も「非正規問題」も存在しない…雇用ジャーナリストが蓮舫氏の公約が的外れと断言するワケ
プレジデントオンライン / 2024年6月22日 10時15分
-
なぜ「年収130万円の壁」がいまだに存在するのか…日本人を貧しくさせる「年収の壁」という大問題
プレジデントオンライン / 2024年6月22日 10時15分
-
なぜ保険料を払っていない「主婦」への年金はなくならないのか...廃止論者が陥る「机上の空論」
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月19日 18時16分
ランキング
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)