危うし、トランプとサウジの「アラブ版NATO」構想 軍事大国エジプトが離脱
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月12日 15時50分
<イランを封じ込めるため、という構想だったが、アメリカとサウジアラビアほどイランを敵対視する国ばかりではなかった>
エジプトが、「アラブ版NATO」から離脱したと報じられた。アラブ版NATOとは、中東で影響力を増すイランを押し戻すため、アメリカとサウジアラビアが先頭に立って推し進めてきた構想だ。
ロイターが4月10日に報じた記事によると、エジプトは4月8日にサウジアラビアの首都リヤドで開催された首脳会議デモ、アメリカ政府や他の参加国に対して、離脱の意向を伝えたという。アラブ版NATOと称される「中東戦略同盟(MESA)」は、2017年にサウジアラビアが提言し、アメリカのドナルド・トランプ大統領が構築を目指してきた。
エジプトは離脱理由として、構想の真剣さを疑問視したことや、MESAによってイランとの緊張が高まる可能性などを挙げた。エジプト政府はさらに、トランプが2020年大統領選で再選されなかった場合にはMESAが頓挫するか解体されるのではないかと懸念を抱いており、参加は無意味ではないかという結論に至ったようだ。
近い将来、消滅か?
アラブ世界で最大の軍事力を有するエジプトが離脱すれば、MESAは大きく後退するだろう。MESA構想には、エジプトとサウジアラビアのほか、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、カタール、オマーン、ヨルダンが参加している。しかしアナリストの多くは、MESAがうまくいく可能性、あるいは同地域で多大な影響力を持つ可能性はあまり高くなかったと話す。
政治メディア「ジオポリティクス・フューチャーズ」のグローバル・アナリスト、ザンダー・スナイダーは本誌に対し、「MESAの成功については、大きな疑問符が常につきまとっていた。参加各国の利害がバラバラだ」と語った。「理論上はイランの封じ込めを目的とした同盟だが、MESA参加国のなかには、イランへの投資のほうにはるかに大きな関心を持っているところがある」
エジプトは、サウジアラビアほどイランを恐れていないと、スナイダーは指摘する。サウジアラビアほど地理的にイランに近くないからだ。またエジプト政府は、湾岸諸国が外国で率いる戦争に引きずり込まれることを懸念しているという。サウジアラビアのイエメン内戦介入や湾岸諸国のシリア介入が、いずれもうまくいっていないためだ。エジプトが、「何も得るものがないのに国を疲弊させる戦争をいやがっているのは明らかだ」とスナイダーは述べた。
ワシントンに本拠を置く湾岸情勢研究所のサウジアラビア人学者で、同国政治情勢の専門家アリ・アル=アフメドは、「エジプトの離脱はMESA構想にとって大きな痛手だ」と言う。「ほかの参加国もそれに続き、アラブ版NATO構想は近い将来、消滅することになるだろう」
※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。
ジェイソン・レモン
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