「チェイニーが監督の命を救った」 『バイス』主演クリスチャン・ベールが裏話
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月15日 18時15分
33歳も年上の男を演じる
しかも『マネー・ショート』では、「現代のセクシー男性」ランキングで首位に輝いたこともあるベールをいかにセクシーでなく描くかという課題に、マッケイのプロ根性がいたくかき立てられた。本作ではそれがさらにエスカレート。チェイニーは45歳のベールよりきっかり33歳年上(2人は誕生日が同じ)で頭もずっとはげている。
だがベールは、役作りのためなら肉体的にも精神的にも自分を極限まで追い込むことをいとわない。ウォール街のエリートビジネスマンで殺人鬼でもある男を演じた『アメリカン・サイコ』(2000年)では、撮影の合間も役に入りこんだままだった。
2004年の『マシニスト』でコーヒーとリンゴを中心にした食生活で体重を30キロ近く落として痩せ衰えた主人公を演じたかと思えば、翌年の『バットマン ビギンズ』のために45キロほど増量。そして2010年の『ザ・ファイター』でも元ボクサーを演じるために大幅な減量を行った。
そんな極端な役作りをベールは楽しんでいるのだろうか。「とんでもない」と彼は言う。「つらいし絶対に体に悪い。『もう二度とやらない』といつも言ってるんだ」。それなのにいい脚本が来るとつい引き込まれ、役作りに燃えてしまうのだ。
監督の命を救ったのは?
今回はパイをたくさん食べるなどして20キロ増量し、特殊メークの助けも借りた(撮影現場でベールを見たあるプロデューサーは、釣りの演技指導の人だと勘違いしたという)。とはいえ、監督も自分も「物まねにはしたくなかった」とベールは言う。「大切なのは人物の本質をつかむことだ」
ベールはチェイニーのインタビュー動画をひたすら見た。その癖やうなり声、ダース・ベイダーのような物言いを体で覚えるためだ。「私のスマホは今も彼の動画でいっぱいだ」と、ベールは言う。
チェイニー役を受けるに当たってベールは、チェイニーが副大統領として下し、最悪の結果を招くに至った決断について、擁護できるくらいに理解する必要があると考えた。「チェイニーの擁護者になろうとしてみるというのがアダムとの約束だった」と、ベールは言う。チェイニーの回顧録も読み、非常に面白いと思ったという。マッケイはこの本を「裁判の宣誓証言みたい」だと思ったそうだが。
実物のチェイニーは37歳から何度となく心臓発作を経験しており、映画でも発作の場面がある。ベールは症状について理解するために心臓専門医の話を聞き、その情報をマッケイに伝えた。どんな症状を演じればいいかを相談するためだ。そして昨年1月、マッケイ自身が心臓発作を起こした。
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