『ビューティフル・ボーイ』薬物依存症の青年と父の苦闘の物語
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月17日 13時10分
実は『ビューティフル・ボーイ』というタイトルは、故ジョン・レノンから「もらった」ものだ。デービッドは80年にプレイボーイ誌の仕事で、レノンと妻のオノ・ヨーコを取材した。その記事はレノンの最後のインタビューとなった。
取材の日、ジョンとヨーコはスタジオで息子のショーンのために書いた曲「ビューティフル・ボーイ」をレコーディングしていた。インタビューを掲載した雑誌が出て2日後、レノンはファンに殺された。
実際のシェフ親子 SHAWN EHLERSーWIREIMAGE/GETTY IMAGES
ニックの問題で闘い続けている間、デービッドは音楽を聞くと抑えていた思いがあふれ出したと話す。下の2人の子供を連れてスーパーに買い物に行ったときのこと。店内に流れるエリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘブン」(転落事故のために4歳で死亡した息子への思いを歌った曲)を聞いて、「その場に立ち尽くした」という。幼い子供たちは「スーパーで突然泣きだした父親を見てうろたえていた」そうだ。
依存症からの回復プロセスは一筋縄ではいかない。「希望が見えたかと思うと失望し、失望の後には絶望が続き、そして運がよければ、また希望がほの見える」と、デービッドは言う。
そんな複雑な事情を、この作品はきちんと伝えている。例えば、治療施設から息子が逃げたとデービッドのもとに連絡が入る場面。パニックになるデービッドに医者が「回復過程では再発はつきもの」と言って聞かせる。ニックは何度も薬の誘惑に負け、デービッドはそのたびに「再発はつきもの」と自分に言い聞かせ希望を失うまいとした。「家族の理解を得るまでがひと苦労」だと、依存症専門医のスコット・ビネンフェルドは話す。「依存症は病気であり、簡単に治せるようなものではない」
なかでもメタンフェタミンは「最も依存性が強い薬物だ」という。「脳に放出されるドーパミンの量が圧倒的に多い」
明暗を分けるのは運だけ
薬物にのめり込むにつれて、ニックの人格が崩壊していくさまを、映画はリアルに描く。聡明で優しい青年だったニックは挙動不審になり、自己破壊的な行動を繰り返すようになる。
依存症患者は薬物を手に入れるためなら「嘘をついたり盗んだり何でもするが、だからと言って悪人ではない」と、ビネンフェルドはクギを刺す。
依存症も癌や糖尿病のような病気だと、デービッドが理解するには時間がかかった。それが分かってからは、息子を管理したり罰するのはやめたという。
この記事に関連するニュース
-
ニッポン放送開局70周年 imagine studio開設20周年記念 『傑作「Mind Games」とジョン・レノンの真実』 2024年7月20日(土)開催決定!
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年6月12日 13時0分
-
「心配してもらうことで愛されていると実感したい」 若者に広がるオーバードーズ 依存症抜け出す鍵は「自分だけじゃない」
RKB毎日放送 / 2024年6月7日 18時32分
-
ヘンリー王子を「愚か」と批判したジョン・レノン息子に物騒予告 父の悲劇がよぎる
東スポWEB / 2024年6月5日 12時52分
-
たばこ依存は病気…根性や会社命令ではやめられない、禁煙治療の現在地と課題「薬で治療ができるという認知が広がってない」
ORICON NEWS / 2024年5月31日 12時0分
-
名言ななめ斬り! 第77回 オノ・ヨーコの名言「最後のところで、私は生きちゃう」-ジョン・レノンを惹きつけたのはヨーコの強さか
マイナビニュース / 2024年5月28日 7時5分
ランキング
-
1工場火災で22人死亡=多数が外国人労働者―韓国
時事通信 / 2024年6月24日 21時39分
-
2日本人母子、刃物で襲われ負傷=ほか女性1人重体、男拘束―中国蘇州
時事通信 / 2024年6月24日 23時28分
-
3ラファのハマス、壊滅間近と分析 イスラエル「戦闘部隊機能せず」
共同通信 / 2024年6月25日 8時51分
-
4米機密漏えいのアサンジ被告釈放=有罪認め司法取引、豪帰国へ
時事通信 / 2024年6月25日 12時2分
-
5登山者を悩ませる「ヒル」、実はジャンプできると判明! 100年の疑問を解決する「決定的瞬間」の動画
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月23日 7時0分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください