妻より夫が極悪非道 新たな暴露本が明かすトランプの娘夫妻の正体
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月22日 18時10分
<ジャレッド・クシュナーとイバンカ・トランプ夫妻の暴露本『クシュナー株式会社』は、痛快だが賞味期限の短い一時のエンターテインメント>
今年3月発売の新刊『クシュナー株式会社――強欲、野心、腐敗』の冒頭は、「アメリカのプリンスとプリンセス」ことジャレッド・クシュナーとイバンカ・トランプ夫妻が、ドナルド・トランプ米大統領の就任式後の舞踏会で踊るシーンから始まる。
その頃クシュナーの両親は、2キロほど離れた所でユダヤ教の安息日を過ごしていた。彼らはクシュナーの弟の悪口を言い、大統領の恩赦に期待を巡らせていた(父チャールズは2004~05年に脱税や違法献金などの罪で罰金刑と実刑判決を受け、さまざまな権利を剝奪されている)。
本の中ではこんな調子で、米大統領の娘夫妻――ジャレッドとイバンカを組み合わせて「ジャバンカ」と呼ばれる――の穏やかなイメージと、その裏の浅ましい動機の対比が繰り返し強調される。2人を取り巻くスキャンダルと過ちと性格上の欠点について、現時点の集大成とも言える1冊だ。
寄せ集めのスキャンダル
一方で、ホワイトハウスを舞台にした陰謀論の典型でもある。最近、話題になる政治本といえば、情報源が曖昧な上、ばらばらの情報源から寄せ集めたものも少なくない。
『クシュナー株式会社』にも、チャールズ・クシュナーはバイセクシュアルだ、イバンカは美容整形をしている、といった噂話がちりばめられている。
クシュナー家の人々は、ジョシュア(ジャレッドの弟)の妻でモデルのカーリー・クロスを、ミズーリ州出身の無教養な「異教徒」だとバカにした。母セリルは、「ジョシュアの結婚を母親として最大の失敗だと思っている」という。
著者でバニティ・フェア誌の元寄稿編集者ビッキー・ウォードは、そんな記述の真偽を問われた際のリスク管理も抜かりない。「この人物はそう聞かされた」「(現在は)状況が変わっているかもしれない」と断り書きが続き、広報担当者が正式に否定したと締めくくる。
ある章の冒頭では、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたボブ・ウッドワードの本の書評を引用している。ウッドワードの本から直接引いた文章もあるが、実際にはそれ自体が匿名の情報提供者が語った「印象」を要約したもの。このようなアプローチは、いわばインスタグラム経由のジャーナリズムだ。著者の主張を曖昧にする一方で、読者の興味をそそる。
ウォードは、イバンカにはそれほど関心がなさそうだ。大統領の長女は自信過剰で、狭量で、現実離れしていて、特別に賢いわけではないが、夫ほど極悪非道ではないと描かれている。
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