ノートルダム大聖堂はなぜフランスの象徴か
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月22日 19時0分
フランス国王の戴冠式はランスで行われた。墓所はサンドニである。ゴール(ローマ帝国のガリア=現在のフランス)の首座大司教の座はパリではなくリヨンにある。このように、ノートルダムは、聖俗の権力から若干の距離を保っていた。教会としてのノートルダムもまた何よりも「パリ」の、そしてフランス国民のものだったといえる。
フランス人にとってノートルダム大聖堂とは何なのか。一言で答えるならば「いつでもそこにあるもの」である。
火事騒ぎが終わって、改めて見てみると、今もある。屋根が焼けて、尖塔が崩れた。しかし、建物はしっかり残っている。
トランプ大統領が「空から水を落とせばいい」といったツイッターにパリの消防当局は、構造が壊れてしまうと反論した。たしかに上空からピンポイントで水を落としていたら、爆撃しているようなものだ。パリの石灰岩は案外熱に弱くて脆くなっているから、崩れ去ってしまっただろう。
消防隊員への賛辞が続いている。それはまちがいなく、フランス国民の象徴であり、フランスというものの象徴を守ってくれた人への感謝だ。
[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)
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