下水管に住みつくモンスター「ファットバーグ(油脂の塊)」退治大作戦
ニューズウィーク日本版 / 2019年4月23日 15時0分
18年にロンドン美術館が巨大ファットバーグの一部を展示したときは、来場者数が急増した。さらに現在、ファットバーグを「主人公」に据えたミュージカルの企画も進んでいる。
だが、その除去作業は笑い事ではない。「コンクリートを砕く作業に近い」と、テムズ・ウォーターのマット・リマー廃棄物部長はBBCに語っている。
ファットバーグは強烈な悪臭を放つことでも知られ、劣悪な環境での仕事に慣れた作業員でさえ吐き気を催すほどだ。このため作業員はガスマスクを着け、防御服に身を包み、高圧ホースでファットバーグを攻撃し、破片をタンカーに吸い上げる。
地下数十メートルにある下水管での作業は、蒸し暑くて息が詰まりそうだ。それなのにファットバーグの除去作業は決して十分な報酬を約束するものではない。ロンドンの下水管の洗浄作業員の初任給は、年間1万9000ポンド(約276万円)だ。
その一方で、イギリスではファットバーグを再利用する取り組みも進んでいる。ホワイトチャペル地区のファットバーグは、1万リットル以上のバイオディーゼル燃料にリサイクルされた。「生分解可能な燃料として新たな命を得た」と、廃棄物ネットワークのアレックス・ソンダースは語る。
ホワイトチャペルの特大ファットバーグが話題になっていた頃、ボルティモア(米メリーランド州)でも比較的大きなファットバーグが発見され、大掛かりな除去作業が行われた。同市公共事業局によると「1街区ほどの大きさ」があったという。
その1年後には、デトロイト(米ミシガン州)で幅180センチ、全長30メートルほどもあるファットバーグが除去された。これまでで最大のファットバーグは、イギリス南西部の海辺の町シドマスで見つかった全長63メートルほどの小山のような塊だ。
ファットバーグの形成を阻止する研究も進んでいる。ドイツの新興企業リポバクは、脂肪分を分解する微生物製剤を開発した。従来のバクテリア溶液は効果が限定的だったが、同社の製剤は極端な温度や下水に含まれる化学物質にも耐えられる。
とはいえ、最大の防止策は下水に糞尿と吐しゃ物、トイレットペーパー以外のものを流さないこと。お尻拭きはもちろん、生理用品やおむつ、ペーパータオルもゴミ箱に捨てるよう徹底する必要がある。
調理油の正しい処分法も徹底すべきだ。フライパンに残った油くらいなら食器用洗剤を混ぜて流せば大丈夫と思っている人は多いが、それは間違いだ。台所に小さな容器を常備し、廃油はそこに集めてからゴミ箱に捨てるようにしよう。
怪物ファットバーグの出現を防ぐのは、一人一人の日々の小さな努力なのだ。
<本誌2019年04月23日号掲載>
※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。
イブ・ワトリング
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