トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月6日 12時30分
この対米大型投資計画を郭氏は「フライング・イーグル(Flying Eagle)計画」と命名した。
かつて日中戦争時代に国民党軍は蒋介石(後に総統)の宋美齢夫人を通して、アメリカから空軍の支援を取り付けており、それを「フライング・タイガーズ(Flying Tigers、中国語では飛虎隊)」と称していたが(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)、この言葉をもじって、今度は台湾(国民党)がアメリカを緊急支援するという意味で、「フライング・イーグル」と命名したものと思う。
この下準備の下に第一回の「トランプ・郭台銘」会談が成立したのだが、会談において郭氏はトランプ大統領に「100億ドル(約1兆1500億円)を投じて、ウィスコンシン州に最先端の8Kを含む液晶ディスプレイ(LCD)パネル工場を建設する」と約束した。
それだけでなく、郭氏は続けてミシガン州でも自動車産業分野に数十億ドルを投資する計画だと、同年8月6日の香港「経済日報」が明らかにしている。
心憎いではないか。
ミシガン州と言えば、アメリカの自動車産業の心臓部・デトロイトがある場所だ。トランプ大統領の支持基盤である中西部ラストベルト(Rust Belt。錆びついた元工業地帯)だ。郭氏はそこに集中的に投資しようとしたのである。
あのとき既に中文メディアでは「郭台銘は台湾のトランプか?」という視点で郭台銘を位置づけていた。
したがって4月17日に郭氏が2020年の台湾総裁選に国民党から出馬することを表明した時には、「おお、遂に来たるべきものが来たか!」と筆者は感慨深くこの情報を受け止めた。
というのも、2017年7月にトランプ大統領と約束したはずの対米投資は一向に進んでいなかったために、今年2月1日にトランプ大統領が郭氏に電話をしてきて、計画の継続を要請してきたという報道を知っていたからだ。2月2日、台北市内で開いた社員の慰労会で、郭氏はトランプ大統領から前日電話があったことを明らかにした上で、「ウィスコンシン州に液晶パネル工場を建設する計画は予定通り進める」との声明を発表している。
この流れから行けば、郭氏は再度トランプ大統領に会いに行くだろうと予測し、動静を見守ることにして、郭氏の次期総統選出馬声明に関して何も書かなかった。
台湾の民意調査では「平和統一反対」84%
静観を決めた背景には、もう一つの要素があった。
それは今年1月6日付のコラム<「平和統一」か「武力統一」か:習近平「台湾同胞に告ぐ書」40周年記念講話>で書いたように、今年1月2日、習近平は「台湾同胞に告ぐ書」発表40周年記念で講話し(以下、「今年の講話」)、2020年の台湾総統選に向けて二つの「脅し」を「台湾同胞」に向けて発しているからだ。
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