「ファーウェイの5G」という踏み絵
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月14日 18時21分
ファーウェイ創業者の任正非は人民解放軍出身だ。米当局者は人民解放軍とのこのつながりが、ファーウェイが安全保障上の脅威であるもう一つの理由だという。
「フアーウェイ製品は、ハードウエアもソフトウエアも問題なのは間違いない。バックドアも見つかったし、さまざまなリスクがある」と、マニングは言う。
さらに中国では、「私企業と政府系企業の間の垣根がはっきりしない」というより大きな問題もある」と、マニングは言う。中国の習近平国家主席は2017年6月、国家情報法を制定。国家安全保障のためには、企業や市民も情報収集に協力する義務があるとした。中国当局に求められればファーウェイから情報が漏れるのではないかという懸念がある。
英米を中心とした英語圏5カ国が作る情報共有の枠組み「ファイブアイズ」のなかで、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国は国内企業がファーウェイ技術を採用するのを禁じた。だが、主要メンバーであるイギリスの離反はアメリカにとって大きな痛手だった。
「これは環大西洋安全保障にとってのブレグジットの弊害の1つだ。ブレグジットのせいでイギリスには、欧州での協力関係を犠牲にしてでも外に新たなパートナーを見つけようとする動機がある」と、大西洋協議会の「未来の欧州」担当のベンジャミン・ハダッドは言う。
ファーウェイを選ぶしかない
メイは、ファーウェイ製品の使用に関して英政府はまだ何も決めていないと主張する。だが、英国立サイバーセキュリティセンターは、ファーウェイ製品がもたらしうるリスクはすべてコントロール可能と結論づけている。同センターには、独自の監視システムと、ファーウェエイの技術に関する理解があるのだという。
他の国々は、ファーウェイ製品を採用してアメリカの怒りを買うリスクと、ファーウェイ製品を使わないで自国の5Gを犠牲にするリスクを天秤にかけることになる。必ずしも、アメリカの言うことをきく国ばかりではないだろ。
「5G用の機器で中国企業が主力になっており、そのうちいくつかはアメリカ企業が作ってさえいないという現実も考えると、スパイのリスクよりも安価なファーウェイ製品を採用するしかないと考える同盟国もあるだろう」と、マニングは言う。
「この問題は白か黒かではなく、灰色だ。アメリカの側では、同盟国との情報共有のあり方を見直す必要があるかもしれない」
どちらを選んでも完全な勝利は得られない悩ましい踏み絵だ。
This article first appeared on the Atlantic Council site.
※5月21日号(5月14日発売)は「米中衝突の核心企業:ファーウェイの正体」特集。軍出身者が作り上げた世界最強の5G通信企業ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)。アメリカが支配する情報網は中国に乗っ取られるのか。各国が5Gで「中国製造」を拒否できない本当の理由とは――。米中貿易戦争の分析と合わせてお読みください。
アシシュ・クマール・セン(米大西洋協議会)
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