白いカーテン越しにのぞき見るジャマイカの陽光と陰影
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月15日 17時0分
心は常にジャマイカに
スミスは、ブルックリンのスタジオにこもっているときが一番幸せだと言う。そこは小学2年生のときのスケッチブックも置いてある彼の「聖地」だ。「子供のときからアーティストになるつもりだった」と彼は言う。「料理人か格闘技の選手になりたい時期もあったけどね」
スミスは9歳のときにアメリカに移住したが、ジャマイカの躍動感を忘れたことはない (c) PAUL ANTHONY SMITH. COURTESY OF THE ARTIST AND JACK SHAINMAN GALLERY, NEW YORK
カンザスシティー美術大学で学ぶために、中西部に住んだことは「素晴らしい経験」だったとスミスは振り返る。ただし、厳しい冬だけはお手上げだった。「本当につらかった。ジャマイカのビーチが恋しかった」
カンザス時代だけではない。「アトリエを除くと、ジャマイカのビーチが一番リラックスできる場所だ」とスミスは言う。「私が1番感動した作品の1つは、高校生のときに見たエドワード・ホッパーの絵画『日曜日の早朝』だ。(ニューヨークの街角を描いた絵だが)人間が1人も描かれていない。とても穏やかで、海を思い起こさせる」
スミスは作業員たちから目を離すと、相変わらず緊張した様子で息を吸い込んだ。そこに額装業者が通りかかり、スミスの顔を見ると、「ちゃんと睡眠を取っているか」と聞いた。「死んだらね」と、スミスは大きくほほ笑んで答えた。
夜のオープニングパーティーまであと6時間。スミスは自作の工具で、展示作品の1つ『太陽のリズムに少し合わせて』のカーテン部分に少し手を加えた。ブルックリンの「西インド諸島の日のカーニバル」で踊るカラフルな衣装を着けたダンサーをフィーチャーした作品だ。
どこまでやれば「これで完成だ」と思えるのか。「食事と同じで、おなかがいっぱいになったときだ」とスミスは笑う。どうやらこの作品に関しては、まだ彼は空腹らしい。
<本誌2019年5月14日号掲載>
※5月21日号(5月14日発売)は「米中衝突の核心企業:ファーウェイの正体」特集。軍出身者が作り上げた世界最強の5G通信企業ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)。アメリカが支配する情報網は中国に乗っ取られるのか。各国が5Gで「中国製造」を拒否できない本当の理由とは――。米中貿易戦争の分析と合わせてお読みください。
メアリー・ケイ・シリング
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