南アフリカの黒人政党ANCに若い黒人がそっぽ
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月22日 17時40分
当時の正確な記録はないが、あれだけの行列ができたのは黒人有権者のほとんどが投票所に足を運んだ証拠だ。99年の第2回総選挙でも投票率は90%近かった。しかし今回は66%と、まあアメリカ並みの水準にとどまった。
この変化の背景には世代交代がある。四半世紀前の歴史的な選挙後に生まれた若い世代は、親や祖父母の世代ほど投票行動へのこだわりがない。
アパルトヘイトの下で育ち、ずっと投票の権利を奪われてきた人たちには、黒人の投票権獲得に尽力したマンデラとANCに対する強い思い入れもある。しかし今の若い世代が知るANCは、「解放者」ではなく腐敗した者たちの牙城だ。
今回の選挙では、有権者の75%しか有権者登録をしていなかった。つまり投票資格のある国民のうち900万人近くが、あえて投票しない道を選んだ。しかも、実際に投票したのは登録有権者の3分の2。投票率は94年以降の最低で、前回14年の時より7.5ポイントも減った。
しかし、これを有権者の「しらけムード」のせいにするのは間違いだろう。選挙という手法には幻滅したとしても、彼らは必ずしも民主主義への参加を諦めてはいない。むしろ選挙への失望は、往々にして直接行動につながっている。
あの国の人たちが本当に政治に無関心なら、抗議デモが頻発することはないはずだ。だが実際には97年から13年の間に起きた抗議デモは6万8000件に上ると推定されている。
数年前のことだが、ヨハネスブルクのシンクタンク「暴力・和解研究センター」がそうした抗議行動に関する研究を発表した。08年以降に南アでどんな抗議デモが行われ、その結果がどうなったかを分析したものだ。
その研究者らは、「反乱型市民精神」という語を提唱した。たいていの抗議行動は大衆的な集会やデモ行進に始まっているが、その後に要求が無視されると行動がエスカレートしていたからだ。政府の代表が約束の時間に来なかったり約束を破ったりすると、たいてい抗議行動の統率は乱れ、時には暴力へと発展していた。
選挙に行くより街頭へ
政治家が国民の声に耳を傾けないのであれば、国民は選挙という通常のルートに頼らず、別の方法で問題解決の道を探る。それは当然かもしれない。
だが、それが民主主義を育むとは限らない。結果が欲しい住民たちの行動はますます過激化するだろうし、それで結果が得られるのであれば、わざわざ選挙に行く必要はないと思ってしまうだろう。つまり今回の投票率が低かったのは、自分たちの思いを実現したければ選挙以外の方法に頼ったほうがいいと、国民が思い始めた証拠と言えなくもない。
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