ブレグジットを先延ばしにする、イギリスのわがまま三昧
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月4日 14時0分
先の寄稿でストロスカーン氏はこうも書いている。
「イギリスがEUに加盟した1973年以降、イギリス人が私たちにとって大いに助けになったとは言えません。1997年から2010年までの労働党政権の期間を除いて、彼らの行動は自分の利益のみを追求し、欧州の建設を遅らせることだけを狙ったものでした。それがなければ、今日のEUははるかに先まで進んでおり、はるかに強く、はるかに団結していたでしょう」
とはいえストロスカーン氏も実は、できることなら2度目の国民投票があって英国がEUに残留することを望んでいる。だが、「イギリスの人々が我が道を行くことを選んだのは私の観点からは間違いですが、それは彼らの自由」。ただ行き詰まりの現状を見るにつけ「悲しい離脱主義者」にならざるを得ないという。
万一残留すればEUにとって危険
筆者は、イギリスが残留することはEUにとって危険であると思う。EUの起源の欧州共同体(EC)は、不戦、人権といった理念を基礎としているのだが、イギリスにとってはプラグマチックな単なる自由経済圏でしかない。ストロスカーン氏は労働党時代のようにイギリスもこの理念を理解し、溝は埋まると期待しているようだが、国民投票の前のEU残留派のキャメロン首相のEUとの交渉ぶりなどをみると、決してそうは思えない。
もっと重要なのは、イギリスは既に様々な特例を受けてきたという点だ。EU負担金は大幅に減額された。難民は一切受け入れない。現在のイギリスのEU残留派もあくまでもその条件下での残留を望んでいる。だが、難民移民排斥とEU負担金への反対こそ、いわゆる欧州懐疑派の極右・右派政党の2大主張だ。特例を持ったまま英国がEUに残れば、彼らにとって大きな追い風となる。
[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)
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