ISIS残党がイラクを襲う
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月7日 17時15分
軍事的解決では不十分
シャマルマンドは今、2週間に1回配下の民兵を砂漠に引き連れ、政府軍と合同でISISの残党を捜している。地元住民から得た情報を基に、戦闘員5~15人規模の潜伏場所を見つけるのだ。戦闘員は孤立した地域で洞窟やトンネルに潜んだり、民家を借りて拠点にしたりしている。
シャマルマンドはCTSとも連携し、地域の情報や接触すべき人物を教えている。彼の活動地域では、部族の武装組織が複数あり、さらにそれ以外の武装組織も多数活動している。シャマルマンドは「どの組織とも協力関係にある」と言うが、マンスールによると、武装組織はそれぞれ内部対立を抱えており、そのため住民の安全が後回しにされているという。
「最近になって(ISISの支配下から)解放された地域で、多くの武装組織が乱立していることのほうが心配だ」と、マンスールは言う。「住民を守るはずの武装組織が縄張りや戦利品をめぐって争っていては、住民が置き去りにされる」
政府の治安部隊ですらも夜間には出歩けない地域がある。そういう地域の住民は命が惜しければISISに協力するしかないと、シャマルマンドも認める。
村人は政府軍や武装組織が自分たちを守ってくれるとは思っていないし、飲み水や食糧、医療などが行き届いていない地域も多い。ISIS支配下での恐怖が生々しく残っているにもかかわらず、こうした事情があるために、ISISの残党の一掃は難しいと、マンスールはみている。
アブ・テバンのような僻地の村は今でも見捨てられたままで、モスルでさえ多くの地域で公的サービスや物資の流入が途絶えている。
ISIS掃討後、イラク政府への国民の支持は一気に高まったが、そのムードはいつまでも続かないだろう。「軍事的な解決では、ダーイシュという現象には対応できても、ダーイシュのような組織を台頭させた根源的な要因は未解決のままだ」と、マンスールは言う。「根源にある(社会的な)要因に誰も対処しないこと。それこそが最も危惧すべき問題ではないか」
From Foreign Policy Magazine
<本誌2019年6月11日号掲載>
※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。
ペシャ・マギド(ジャーナリスト)
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