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PTSD治療の第一歩は潜在記憶の直視から

ニューズウィーク日本版 / 2019年6月19日 17時30分

しかも引き金となる感覚とそれがもたらす苦痛の関連性に、当事者はめったに気付かない。マリアは店員とおじが似ていることに気付きもせず、ただ恐怖に駆られて逃げ出すだけだろう。いつ何が引き金になるか分からないため、いつどこで発作が起きるかも分からない。



この恐怖構造を解体していけるかどうかが治療の鍵を握る。PTSDを克服するには熟練した専門家の指導の下で、患者は何度もつらい体験を語る必要がある。言葉にできない苦しみを、いつでも言葉にできる体験に変えなければならないのだ。

決して楽な作業ではない。心の傷を思い起こさせるものは何であれ避けたいのが人情だ。傷から目を背けたい衝動は強く、多くの患者が幻覚剤や医療用マリフアナにすがる。だが薬物は根本的解決にならず、恐怖構造を壊してもくれない。

記憶の秩序を取り戻さなければ――。そう意識して初めて、患者は健やかな新生活への一歩を踏み出せる。

(本稿は筆者の新著『言葉にできない記憶――PTSD研究の最前線から見たトラウマと癒やしの物語』からの抜粋)

<本誌2019年6月25日号掲載>


※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。



シャイリ・ジャイン(精神科医、スタンフォード大学医学大学院准教授)


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