習主席は米国崇拝の投降派? 米中貿易戦争で中国の宣伝工作が混乱
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時20分
翌7日には国営通信社の新華社がニュースサイトで対米「投降論」の排除を訴える論評を発表した。論評は「少数の人々が『軟弱病』にかかり、民族の気概を失って、投降論を言いふらしている」とした上で、「われわれは必ず旗幟(きし)鮮明に『ノー』と言わねばならない」と主張した。
7日以後も、党機関紙・人民日報を含む公式メディアの対米批判キャンペーンは続いた。
映画は直ちに親米転換
中国がメディアを通じて、いくら米国を罵倒しても、何もしなければ、米側は対中制裁を強化するばかりだ。国内総生産(GDP)イコール経済力ではないし、経済力イコール国力でもない。第2次大戦後の世界秩序を構築した最大最強の先進国である米国の国力は、新興市場国で中進国の中国とは比較にならないほど強く、中国側に有効な反撃手段がないのは客観的事実だ。
習氏は6月18日、トランプ氏と電話で話し合い、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)を機に会談することで合意した。国営中央テレビは翌19日、一部の番組を急きょ変更し、米軍人の男性と中国人女性の恋愛映画を放送した。
中央テレビは5月16日、米中貿易協議(同9~10日)が物別れに終わったことを受け、番組の予定を変えて朝鮮戦争などの反米映画の放送を開始していた。いずれの変更も党中央宣伝部からの指示とみられるが、反米への転換より親米への転換がはるかに速かった。
米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の中国語ニュースサイトは6月19日、対米関係に絡む中央テレビの対応について「中国ネットユーザーから嘲笑されている」と指摘。ネット上で「外交関係に映画で対応するとは大した発明だ」「米帝には(中国側の配慮は)分からないだろう」などと皮肉る声が出ていると伝えた。
習氏は対米貿易戦争で一貫して中央指導部の「核心」らしいリーダーシップを発揮してこなかったが、最近の米国に関する宣伝の整合性のなさでその印象はより強まった。もう一つの難題である香港問題でも、習政権を後ろ盾とする林鄭月娥行政長官が民主派の反対で逃亡犯条例改正の棚上げに追い込まれるという政治的大敗を喫しており、習氏の「1強」としての威信が低下していることは否定できない。
[執筆者]
西村哲也(にしむら・てつや)
時事通信社外信部長
1962年京都府生まれ。85年時事通信社入社。大阪支社、外信部、北京特派員(94~97年)、外信部次長、中国総局長(2002~04年)、外信部次長兼編集委員、香港支局長(08~15年)、外信部専任部長、副部長を経て18年4月から現職。
著書に『中国政局を読む~胡錦濤から習近平へ』『中国政局を読むII~習近平の反腐敗闘争』(いずれも時事通信オンデマンドブックレット)。
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
西村哲也(時事通信社外信部長)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載
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