「おっさん」など、中年への揶揄はなぜ許容されるのか
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月4日 18時30分
U字曲線(ハピネス・カーブ)が底を打つこの時期の人々に対する社会的なサポートだけでなく、社会全体の中年に対する認識を改める必要性があるというのがラウシュの本書での主張である。
ブルッキングス研究所シニアフェローのジョナサン・ラウシュ(写真:サントリー文化財団提供)
実は、認識を改める必要があるのは老年期も同じだ。医学や公衆衛生の進歩のおかげで寿命が延び、むしろハピネス・カーブが上昇に転じてからの人生が長くなっており、その傾向は今後も続くだろうとラウシュは指摘する。5月17日に東京で開かれたシンポジウム「高齢化社会はチャンスになりうるか」(サントリー文化財団主催)のパネリストのひとりとして来日したラウシュは、次のように述べた。
「今の80歳は昔の65歳であり、1960年代の50歳よりも今の75歳が年寄りとは言えない。健康な高齢者が増えているが、それは高齢時代が長くなっているのではなく、若くいられる時代が延びていると認識すべきだ」
つまり、寿命が短かった時代に作られた認識やシステムの中で、いまだ私たちは生きているのだ、と。
中高年の能力を発揮するために必要なシステム
同シンポジウムでは、登壇した米シラキュース大学のマルガリータ・エステベス=アベ准教授がこんな指摘もしている。すなわち、少子高齢化のため高齢者雇用が叫ばれているが、実は日本の65歳以上の雇用率は男性約30%、女性約15%と、男女ともに先進国の中ではトップレベルである、と(ドイツは男性約10%で女性が約5%、イタリアは男性約8%で女性が約3%)。
しかし、日本の雇用システムは60歳定年を前提にしているため、40代後半から人材教育にほとんど投資しなくなる問題点があると、エステベス=アベは述べる。その結果、「パソコンが使えない」「USBが何かもわからない」と持ち前の知識や経験を活かす以前の問題が起こり、結果として高齢者が「スキルのない安い労働力」として、買い叩かれる事態が起きてしまうのだ。
シラキュース大学政治学部准教授のマルガリータ・エステベス=アベ(写真:サントリー文化財団提供)
そもそも高齢者は本当に仕事の能力がないのだろうか? ラウシュは『ハピネス・カーブ』で加齢に関する最新研究を紹介している。
中高年の人も若い人と同じように生産性が高いし、彼らがいることで周りの生産性も高まることがわかっているが、これは何か衝突や問題が起きたときに、経験豊富な彼らがうまくその場をなだめているからだろう。そうした理由から、年齢層が幅広いチームのほうが生産性は高く、全国の産業の平均よりも高い。中高年は若い人と同じように集中力もやる気もある。(編集部注:『仕事に生きる知恵(Wisdom@Work)』の著者チップ・)コンリーはこう書いている。「実際、中高年ほど集中力の高い年齢層はない」 また、中高年を訓練するのは難しくもないし、適応能力も問題ないばかりか、新しいトレーニング方法にもうまく対応できる。認知能力は年齢とともに衰えていくものの、中高年は脳のほかの領域を同時に使うことでその点を補っている(この現象は"全輪駆動"と呼ばれている)。中高年のチームは少しスピードは遅いかもしれないが、ミスは少ない。健康面では「毎日の健康状態は、中高年も若者もどちらも同じくらい(身体的にも精神的にも)健康的」だが、コンリーによると「平均すると、中高年は若者ほど休みをとらない」という。(『ハピネス・カーブ』363ページ)
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