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豪雨災害報道で拭えない「不自然な印象」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年7月5日 16時0分

そこで、「5段階の4番目」である「警報=レベル4」の段階が「全員避難」だということになっています。ですから、今回の鹿児島市では「全市59万人に避難指示」が出ています(4日午後7時までに一部を除いて避難指示は解除)。ですが、こちらにも問題があります。「全員」という言葉は建前であり、本当に59万人が避難所に移動したわけではないし、期待されてもいないというのが現実です。一部の報道では、実際に避難した人は1800人(0.3%)という数字もあるようです。

ということは、やはり「全市59万人」を対象に一斉に指示を出すというのは粗すぎると思います。ハザードマップの高精度化、カメラやセンサーによるリアルタイムな被害の状況などに基づいて地域ごとに絞り込んだ避難指示を、例えばですが「目標完了時刻」を設定して、そこから逆算して指示を出すとか、キメ細かく実施する体制が求められます。



3つ目は、避難が遅れる原因の分析です。文化的に「この目で見ないと信じない」という傾向が日本社会には残っています。だからこそ、早めの避難について強く呼びかける必要があるわけですが、避難が遅れるのはそうした文化の問題ではないように思います。

例えば高齢者の場合は、避難所生活をすることで健康に大きな負担がかかるわけで、そうなると「できれば自宅に留まりたい」という反応が出るわけです。現場の方々は理解していて、状況に対して誠実に向き合っているわけですが、そこを何とか健康への負荷にならないように避難へ誘導するのはノウハウの問題、そしてコストの問題になります。そのあたりの議論は十分ではないように思われます。

4つ目は、雨が上がった後の問題です。これだけの雨量が累積している中では、この後、全く降水がなくても九州南部では土砂災害の危険は続きます。また、わずかな雨が降ったり、震度3ぐらいの地震が起きたりしても大きな災害になることが考えられます。ということは、雨が止んでも、むしろ警戒は強めなくてはならない地区はあります。そこをキッチリ報道しなければならないでしょう。

5つ目は、気候変動の問題です。例えばプエルトリコでのハリケーン「マリア」による壊滅的な被災を受けて、アメリカでは「グリーン・ニューディール」という排出ガス削減政策の議論が始まっています。ですが、日本の場合は、これだけ異常な気象災害が頻発して、明らかに気候に変動が生じているのに、排出ガス削減論議は盛り上がりません。

日本では参院選が始まりましたが、新たに結党された左派政党の公約に「エネルギーの主力は火力」という言葉が出てくるなど、まったく信じられない状況があるわけです。以前とは違って、排出ガス問題では中国の方が、省エネ化、エネルギーの多様化、EV化などを率先して進めています。日本でも、今回の豪雨など異常な気象現象を受け止める中で、温暖化の議論を再スタートする必要があるのに、メディアはまったく取り上げないという点にも、違和感を覚えざるを得ません。

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