米国とイランの対立は楽観禁物 トランプは福音派の支持固めを狙う
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月5日 17時0分
軽視できない原油価格上昇のリスク
中東の地政学リスクの影響を考える上で注視しなければならないことは、原油価格の動向だ。特に、イランが世界の石油輸送の大動脈といわれるホルムズ海峡での軍事演習の実施をほのめかすような場合には、世界経済への原油供給に関する懸念が高まる。
足元の世界経済は米国経済に支えられてそれなりに安定している。この中で、中国経済は債務問題の深刻化から厳しい状況を迎えている。石油需要が大きく増加する状況にあるとは言いづらい。国内外の市場参加者と話をしていると、「需要が高まりづらい中でイランと米国の緊張が高まったとしても大したことはないだろう」との見方が多い。
そうした時こそ、供給懸念の高まりとともに、原油価格が短期間のうちに大きく上昇してしまうリスクに注意が必要だ。市場参加者の見方が一方向に偏っている場合、想定とは異なる変化に直面すると資産の価格は想定とは逆の方向に大きく動くことがある。
それを契機に原油価格に上昇圧力がかかり、徐々に上昇基調となることも考えられる。このシナリオを市場参加者は過小評価しているように見える。石油輸出国機構(OPEC)とロシアが協調し、2020年3月末までの減産延長を決めたことの影響も軽視できない。
原油価格の上昇は、世界経済にとって無視できない成長の下押し要因だ。原油価格が上昇基調で推移すれば、どこかのタイミングでインフレ懸念が高まるだろう。それは、各国の名目金利を上昇させる。
中国では、企業と地方政府の債務問題が深刻化している。米国でも、企業の債務は過去最大にまで膨張している。金利が上昇し始めると、債務の返済に行き詰まる借り手が増えるだろう。特に、中国においては原油価格の上昇を受けた金利上昇が企業の連鎖倒産などに波及し、景況感が大きく下振れる可能性は軽視できない。その場合、世界経済の先行き不透明感が高まることは避けられないだろう。今すぐにこうした状況が現実になるとは言いづらいが、イランと米国の関係悪化が世界経済に与える潜在的なリスクは軽視できない。
[執筆者]
真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院教授
1976年一橋大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年ロンドン大学経営学部大学院修士。みずほ総合研究所同主席研究員、信州大学経法学部教授などを経て2017年4月より現職。日本商工会議所政策委員会・学識委員、東京証券取引所主催東証アカデミーフェローも務める。主著に『行動経済学入門』など。
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
※7月9日号(7月2日発売)は「CIAに学ぶビジネス交渉術」特集。CIA工作員の武器である人心掌握術を活用して仕事を成功させる7つの秘訣とは? 他に、国別ビジネス攻略ガイド、ビジネス交渉に使える英語表現事例集も。
真壁昭夫(法政大学大学院教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載
この記事に関連するニュース
-
イラン改革派大統領が当選も米大統領選が行方を左右 最高指導者も今後のカギに
産経ニュース / 2024年7月6日 21時4分
-
国民の不満噴出の中、イラン新大統領に改革派ペゼシュキアン氏…国際協調路線で制裁解除目指す
読売新聞 / 2024年7月6日 19時20分
-
改革派勝利で穏健外交か=核合意、制裁解除へ変化期待―イラン
時事通信 / 2024年7月6日 16時3分
-
イランで19年ぶり改革派大統領、ペゼシュキアン氏当選…国際協調路線で制裁解除を目指す
読売新聞 / 2024年7月6日 14時20分
-
イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 12時40分
ランキング
-
1北朝鮮がウクライナに派兵の可能性…ロシア占領地域、プーチン氏が要請か
読売新聞 / 2024年7月6日 5時0分
-
2EU議長国のハンガリー首相が独断で訪露 ウクライナ支援の先行き懸念
産経ニュース / 2024年7月5日 22時55分
-
3ゼレンスキー氏、スターマー英新首相と電話会談 支援継続の確約に謝意
産経ニュース / 2024年7月6日 9時43分
-
4バイデン大統領、選挙戦継続を改めて強調 撤退へ圧力強まる
日テレNEWS NNN / 2024年7月6日 17時2分
-
5シンベト元諜報員が非難 イスラエルの破壊者は「ネタニヤフ首相」
AFPBB News / 2024年7月5日 20時39分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください