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ドイツにネオナチ・テロの嵐が来る

ニューズウィーク日本版 / 2019年7月11日 13時45分

<移民に寛容な知事の暗殺をはじめ極右の活動が先鋭化――長年にわたって不穏な動きを放置したツケが回ってきた>

6月2日、ドイツの政治家ワルター・リュブケが自宅前で頭を撃たれて死亡したとき、有識者たちはすぐに右翼の過激派の仕業だろうと指摘した。警察は犯人について先入観を持たないよう呼び掛けたが、その訴えも本気ではないように聞こえた。犯人は被害者と親しい人物だという説もすぐに消えた。

事件について各方面の足並みのそろった反応は、見事なほどだった。だが同時に、これは国家的な怠慢の結果とも言えた。

リュブケは中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)所属で、09年からドイツ中部ヘッセン州カッセル県の知事を務めていた。新聞の追悼記事は、いかにリュブケが地元で幅広い人気を得ていたかを伝えている。

しかしドイツが移民・難民危機に直面していた15年、彼は右翼の標的になった。

この年に県内のローフェルデンで開かれた集会で、リュブケは難民キャンプの建設計画を説き、ドイツは慈善などのキリスト教の価値観を重視する国だと反対派を一蹴。「その価値観を受け入れられない者は、いつ国を出て行ってもらっても構わない」と語った。

この発言が右翼の怒りを買い、リュブケの元には暗殺予告など350通を超えるメールが殺到した。リュブケは警察の保護下に置かれたが、右翼の過激派は執拗に彼を攻撃し続けた。

トルコ系ドイツ人の保守系作家アキフ・ピリンチは、ローフェルデンの集会の数日後に極右の集会で演説。リュブケが反対派に国を去るよう促したのは、ドイツにはとっくの昔に強制収容所がなくなったからだと発言。リュブケの望む解決法は、政敵の集団処刑だと暗に指摘した。

これでリュブケは極右に完全に嫌われた。かつてCDU内の右派議員だったエリカ・シュタインバッハは、問題となったリュブケの演説動画をSNSで12万人のフォロワーに向け、今年2月を含め3度にわたり流した。今年に入り、右翼のサイトもリュブケ批判を強めていた。

右翼軽視の長過ぎた歴史

だからリュブケ殺害の容疑者シュテファン・エルンストが過去に人種差別的な暴力を働き、極右組織とつながりがあったと分かっても、誰も驚かなかった。

今回の暗殺事件によって、ドイツでは右翼によるテロの増加を非難する声が高まっている。ホルスト・ゼーホーファー内相をはじめとする保守派指導者も、極右を抑え付けることが急務だと述べ、右翼テロリストの取り締まりに多くの人員と資金を投じると約束した。

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