世界の紛争地で日本人フォトグラファーが見た「いのち」
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月26日 15時0分
本著の中で、特に印象に残ったのは、2003年の南スーダンで、あちこちに行き倒れた遺体が転がっている状況を目の当たりにした現場での、著者の率直な言葉だ。「やはり、日本での生活が頭に浮かんだ。町中に所狭しと溢れる食べ物屋、24時間営業のコンビニ、毎日これでもかとグルメ情報が流れてくるテレビ」と、日本の現実を突きつけ、こう述べる。「その便利さ、豊かさの陰で1年間に1900万トンもの食品が棄てられているという現実。数字で実感するのは難しいが、これが世界の7000万人が1年間食べていける量だと聞くと、『えっ!』と絶句するしかない」
その上で、橋本氏はその状況をこう皮肉っている。「その時、3食満ち足りた日本のヒューマニストが言う『清貧』という言葉が『風に飛んで』いった」
飢餓で死亡した幼児の遺体を遺体収容トラックへ渡す。バルデラは死の町とよばれたバイドアと同じように毎日飢餓でばたばたと人が亡くなっていた(ソマリア・バルデラ、1992年) Noboru Hashimoto
命の灯が消えて行く。飢餓で死にゆく子供に水を与える母親(ソマリア・バイドア、1992年) Noboru Hashimoto
一粒一粒指先で米を拾い集める人々。その時、3食満ち足りた者(日本のヒューマリスト)が言う「清貧」という言葉が風に飛んでいった(南スーダン・アレク村、2003年) Noboru Hashimoto
日本という恵まれた環境で、日常に忙殺される日本人。橋本氏の見てきたような人類の苦難は、いまも世界各地で起きている。そんな現実に触れることで、生きることについて今一度、考えてみてもいいかもしれない。それは、人生観が揺さぶられる体験になることだろう。
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
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