社会階層で投票意識はここまで違う
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月31日 16時15分
<学校での主権者教育、公民教育が、政治的関心を高めるために期待されている>
参院選が終わったが、投票率は50%を割る過去最低レベルだった。特に投票率が低いのは若年層で、年齢による投票率の差があることはよく知られている。
さらに、同一の年齢層の中でも投票率にはバラツキがある。たとえば「社会階層」による違いだ。社会の成員は、持っている富や資源(資本)の量に依拠して階層化され、その可視化には所得がよく使われる。また学歴など文化面の指標で分けることもできる。
手元に、2010~14年に実施された『第6回・世界価値観調査』の個票データがある。日本の20~30代のサンプルを取り出し、義務教育卒、中等教育卒、高等教育卒の3つの学歴群に分け、「国政選挙でいつも投票する」の回答比率を出すと、順に21.6%、36.5%、51.1%となる。同じ若年層でも、投票率は学歴によって大きく異なる。政治への関心の差が表れている。
日本の成人サンプル(2354人)を年齢と学歴で9つの群に分け、国政選挙の投票率を計算してみた。<図1>は、20%刻みの4つの区分で塗り分けたグラフだ。各群のセルの大きさから、人数比も分かるようにした。
右上の「高齢・高学歴層」では投票意欲が高く、左下の「若年・低学歴層」ではその逆であることが分かる。
この2つの層では、政治への要望はかなり異なっている。前者は年金等の高齢社会対策を強く求めるが、後者は雇用対策や所得格差の是正等を望むと考えられる。だが、人数の上で差があるのに加え、投票率がこうも違っていれば、政策の比重が前者に傾くのは明らかだ。
左下の群は、不利な生活条件に置かれた人たちで、社会問題への鋭い関心を持っているはずだ。それが政治的関心に昇華されることで社会変革の道が開けるが、現実はそうなっていない。逃避を通り越して、暴動やテロのような良からぬ方向に向く兆候すらある。相次ぐ通り魔事件などは、そうした兆候を感じさせる。
社会への不満のエネルギーを、合法的な改善の方向に向けさせる必要がある。それは学校の政治教育の役割だが、政治や選挙への関心には早い段階から階層格差がある。<図2>は、小学生の家庭の年収と政治的関心のクロス集計結果だ。4~6年生6256人のサンプルによる。
富裕層の子どもほど、政治や選挙への関心が高い傾向が見られる。家庭で政治について話す頻度の差などによるものだろう。これは小学生のデータだが、中学生や高校生になるにつれて、この格差が拡大するとしたら問題は深刻だ。公教育を担う学校は、家庭環境による格差を是正することにも注意を払う必要がある。
低所得層には、辛い思いをしている子どもが少なくないが、子どもたちはそれを政治や経済といった社会の問題と関連付けて考えることができない。「こういう家に生まれたのだから」と割り切ってしまう。こうした認知の歪みを正すには、「法の下の平等」といったお題目を説いて聞かせるだけでは足りない。政治によって、世の中の貧困や不平等が克服された事例を題材として取り上げるべきだ。
現状の日本社会は「支配層による支配層のための政治」という側面が強い。体制が維持再生産されやすくなっている。政治的関心の階層格差は、早い段階で意図的に是正されねばならない。学校における主権者教育、公民教育への期待は大きい。
<資料:『第6回・世界価値観調査』(2010~2014年)、
国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2016年度)>
舞田敏彦(教育社会学者)
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