日本とアメリカの貧困は、どこが同じでどこが違うのか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年8月2日 16時10分

<日本もアメリカと同様に先進国の中では相対的貧困率が高く、再分配がうまく行っていないという論説がアメリカで話題になっている>

米ブルームバーグが配信したノア・スミスというコラムニストの記事「Stop Blaming America's Poor for Their Poverty」(意訳すると、「アメリカの貧困は貧困層の自己責任ではない」)が話題になっています。

スミス氏の指摘しているのは、日本とアメリカとの比較です。日本では、人々は勤勉だし、薬物中毒による乱用も少なく、犯罪発生率に至ってはアメリカの10分の1以下、シングルペアレント家庭の数も少ない、しかも就業率は高いとした上で、そんな日本でも貧困が問題になっているとしています。

日本の相対的貧困率は15.7%で、アメリカの17.8%よりは低いが、先進国の中では高い水準だというのです。しかしコラムは、日本の批判が目的ではありません。

そうではなくて、アメリカの保守派に見られる「自己責任論」、つまり貧困の問題は10代のうちに無計画に親になったり、薬物中毒や犯罪に関与したり巻き込まれたりといった本人とその周囲の環境に問題がある、そのような考え方を批判するのが目的です。

アメリカの保守派は、このような貧困層、あるいは貧困層の多い地域の持っている問題を取り上げて、そうした人々は人生設計に失敗したり、努力をしないから貧困に陥っている、つまり「自分が悪い」という考え方をしがちです。スミス氏は、これに反論するために「治安などが良く、勤勉な」日本の例を挙げて、「そんな日本でも貧困率が高い」のは再分配が足りないからだとしています。要するに、アメリカにおける自己責任論を否定して、再分配を促進するために日本の状況を比較対象にしているのです。

筆者は、日本でもアメリカでも再分配が足りないという指摘には条件付きで賛成します。特に日本の場合は、再分配が高齢者に偏っており、現役世代や子供の教育には社会的なコストが投入されていないという独自の構造があり、これは是正する必要があるでしょう。

ですが、日本の貧困の問題は、再分配が足りないからではありません。そうではなくて、経済成長できていないことが問題なのです。

経済成長が鈍化している理由として、よく言われているのが「人口減少」です。日本社会は人口減から逃れられない、従って市場は縮小するし経済も縮小する、だから人々は将来不安から消費を抑制するというストーリーです。



間違ってはいないと思います。ですが、もっと重要なのは日本の産業構造が劣化していることです。現在の日本経済には、昭和末期のように「世界の市場を占有するような勢いのエレクトロニクス製品」とか「集中豪雨的輸出だとして非難される自動車の完成車」などの製造業はほとんど残っていません。

世界経済を支えているスマホ産業では国際市場からほぼ全社が撤退、IT化の進むフィンテック部門では完全に後進国、AI技術ではもっと後進国で、AIを実用化するためのビッグデータ収集という点ではさらに遅れています。

それでは、日本に何が残っているのかというと、具体的には「中小企業中心の部品産業」「日本語による非効率な事務作業」「低賃金構造の観光産業」くらいです。一方で、トヨタをはじめとする日本発の多国籍企業には元気な会社もありますが、AIなど最先端の開発や、デザインなど高付加価値の機能は、どんどん国外に出してしまっています。最もGDPに貢献する製造部門は、自動車にしてもほとんど現地生産にシフトしており、雇用も利益も国外で生み出されているだけです。

つまり、日本のGDPにカウントされる国内経済は、規模の点、質の点でも先進国から滑り落ちるスレスレのところにいるのです。

ということは、最初に紹介したスミス氏のコラムについては、やはり間違っていると言わざるを得ません。再分配は大事です。日本でもアメリカでも、格差社会の是正のためにもう少し増強しなければなりません。ですが、貧困の本当の原因は、別の場所にあります。アメリカの場合は中間層を育てられない教育やコミュニティーの問題が根底にあり、日本の場合はとにかく産業構造の劣化が大きな要因と考えられます。

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