トランプ対中関税の副産物?人民解放軍の軍備増強がスローダウン
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月9日 19時38分
<2030年までに4つの空母打撃群を運用することを目指す中国だが、追加関税によるコスト高騰で節約モードに>
ドナルド・トランプ米大統領は、不公正な貿易慣行で米企業に損害をもたらしているという理由から、中国製品に追加関税を課してきた。そのやり方がどれほど効果的なのかはまだわからないが、複数の報道によれば、人民解放軍(PLA)の海軍が困りはじめているという。一連の追加関税による調達コストの上昇で、艦隊の増強が計画通りに進まなくなっているというのだ。
香港紙サウスチャイナ・モーニングポストによれば、中国のある軍関係者(匿名)は次のように語った。「米中間の緊張が高まっていることから、中国政府の指導部は、新たな戦艦の建造に使うカネはなるべく倹約しなければならないと感じはじめている」
中国海軍はこの数年、猛スピードで増強してきた。中国政府が主張する南シナ海の領有権を守り、米海軍と張り合うために、空母2隻をはじめとする最新型の艦船を次々と建造している。
米シンクタンク戦略国際問題研究所によれば、2018年時点で中国海軍が保有する艦船は300隻と、米海軍の287隻よりも多い。もちろん、空母打撃群を有するなど実力ではまだ米海軍のほうがはるかに強いのだが。
南シナ海と台湾で睨み合い
中国海軍と米海軍は、中国がほぼ全域で領有権を主張している南シナ海でにらみ合いを続けてきた。米海軍は定期的に「航行の自由」作戦と称して同海域を巡回、中国を牽制してきた。台湾有事の際にアメリカが介入してくることも中国は警戒しなければならない。
前述の軍関係者はサウスチャイナ・モーニングポストに対し、ハイテク兵器や制御システムを搭載した空母や戦闘機の場合は約500億元(72億ドル)、055型駆逐艦なら60億元を超える建造費がかかるだろうと語った。055型駆逐艦は、地対空ミサイルまたは対艦ミサイル計112発分のミサイル垂直発射装置を備えており、位相段列レーダーをはじめとする最新型のセンサーを採用している。
米海軍の現在の主力空母は、ジェラルド・R・フォード(CVN78)級だ。この新型原子力空母は建造費が130億ドル超。これまでの主力空母だったニミッツ級の約3倍の電力を発生させることができる最新型の原子炉2基を搭載しており、兵器搭載能力も艦載機の射出スピードも大幅に向上することになる。
中国経済にとっては、こうした艦船の建造費に加えて維持費や修繕費も大きな負担となる。それでも、中国在住の海軍専門家である李傑によれば、中国政府は2030年までに4つの空母打撃群を運用し、うち3つを常時戦闘態勢に置く計画だ。
現在、中国が保有している空母は2隻。旧ソ連のアドミラル・クズネツォフ級の艦隊を1998年にウクライナから購入して空母として完成させ、2012年に就役させた遼寧と、初の国産空母である001A型だ。
習近平国家主席にとって、軍の近代化と能力向上は今も優先課題であることに変わりはない。だがさまざまな必要経費を考えると、長期的な防衛費の見直しが必要なのは自明で、まずは海軍幹部が節約に知恵を絞ることになるだろう。
(翻訳:森美歩)
ロヒト・R・ナイール
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