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フルタイムで働いても非正規では大半がワーキングプアなのが日本の現実

ニューズウィーク日本版 / 2019年8月14日 14時0分

<定められている最低賃金では「普通の暮らし」をすることさえおぼつかない>

雇用労働が普及した現在では、労働者は働いた対価として賃金を得る。野放しでは雇い主が賃金を思いのままに決めてしまうので、最低限の生活に足る最低賃金が定められている。2019年度の最低賃金は、最も高い東京で時給1013円、最低は790円(15県)となっている。

時給790円の場合、1日8時間労働の日給は6320円で、年間250日働くと年収は158万円となる。これが最低限の暮らしができる収入かどうかは怪しい。東京の最低賃金だと年収は203万円だが、都市部の物価の高さを考えると心もとない。

これは最低賃金による見積もりだが、普通に働いても普通の生活に足る収入が得られない人は数多くいる。週35~45時間働く労働者を抽出し、年間所得(税引き前)の分布を見ると<図1>のようになる。正社員、派遣社員、パート、アルバイト、フリーランスに分けて出した。フリーランスとは、従業地位が「雇人のない業主」を言う。



正社員では半分が所得400万円以上で、4人に1人が600万円以上となっている。しかし他の群では所得400万円未満が大半で、パートやアルバイトでは200万円未満のいわゆる「ワーキングプア」が6割以上を占める。ボーナス等がないためだが、フルタイム就業でこの有様とは酷い。フリーランスも半分近くがワーキングプアとなっている。

参院選のポスターで「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会を」と訴える候補者がいたが、今の日本はそれには程遠い。だからこそ、このようなフレーズに訴求力が感じられるのだろう。



他の国はどうか。OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」では、各国の成人に労働時間と年収を尋ねている。年収は「有業者全体の中でどのあたりと思うか」を問う形式で、認知の歪みの影響が出るが、参考にはなるだろう。週35~45時間働く労働者を取り出し、年収の回答分布をグラフにしてみた<図2>。ジェンダー差も見るため、男性と女性で分けている。



青色は年収が下位25%未満と答えた人の割合だが、日本はこのゾーンが広い。女性では半分を超えており、<図1>の所得分布の結果とも符合する。お隣の韓国も似たようなタイプだ。

対して欧米諸国では、オレンジ色の中間がマジョリティとなっている。明瞭なジェンダー差もない。週35~45時間、普通に働けば普通の暮らしができる社会と言える。日本や韓国に比べて、その実現の度合いが高いのは確かだろう。

為すべきは最低賃金の遵守、いや引き上げだ。今回のデータを見ると、「最低賃金1500円を」という呼びかけにも合理性があるように思えてくる。それでは会社がもたないというなら、BI(ベーシックインカム)による補填を考えてもいい。

AIやICT技術の進歩により、1日8時間労働で事足りる時代はすぐそこまで来ている。それにもかかわらず、現状が追い付いていないのは、働き方に無駄があること、富の配分に偏りがあることによる。これらを正すだけでも、状況はだいぶ好転するのではないか。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2017年)、
    OECD「PIAAC 2012」>








舞田敏彦(教育社会学者)

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