「現実が見えてない」金正恩のミサイル連射に平壌市民が反発
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月20日 15時20分
今年6月30日に板門店で3度目となる米朝首脳会談が行われた。トランプ大統領が米国の大統領として初めて北朝鮮側に入るなど、世界の耳目が集中したが、その映像を見た平壌市民は酷評しているというのだ。
「今年だけでも北南と朝米の首脳会談が複数回行われたが、何の成果もなかった。住民は、元帥様が外国の首脳と10回会談しても20回会談しても何も変わらず、人民の暮らしは苦しいままだと嘆いている」(情報筋)
そんな世論の悪化を、当局はプロパガンダで抑え込もうとするばかりだ。人民班(町内会)の会議や政治講演会で「自力更生で頑張ろう」などと訴えるだけで、住民からは「現実を認識できていない」との批判の声が上がる。
また、情報筋は「元帥様が外国の首脳と会談しても交渉しても構わないから、商売をして食べていけるように取り締まりをやめてほしい」との声も多く上がっていると伝えた。
世論悪化について北朝鮮で高官を勤めたことのある脱北者は、金正恩氏の支持基盤と言える平壌市民からこのような批判の声が上がっていることについて「核心階層が動揺している」と指摘し、金正恩氏が批判を汲み取り、米朝交渉で制裁緩和や解除をより積極的に要求するだろうと分析した。
労働党の高級幹部の間では「今年秋にも金正恩氏が訪米する」との噂が流れているとのことだが、この脱北幹部は、中央党(朝鮮労働党中央委員会)が住民の不満を抑えるために意図的に流したと見ている。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。
※当記事は「NKNews」からの転載記事です。
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
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